おでこのにきび様

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★ それから数日後、わたしは会議室の一室を借り、高坂先輩の指導を受けていました。 自分なりに頑張って社内資料を用いたスライドを作成し、無難なプレゼンテーションをしたつもりでした。 けれどその評価は手厳しいものでした。 「……ダメすぎて聞いているだけで吐きそうだ」 辛辣な言葉は予想していたものの、現世から一気に地獄へ落とされました。わたしは今、なんらかの罪を犯したのでしょうか。 「あの……どこが悪かったですか……?」 「ああ? どこがって聞くってことは、ダメなところすら自分でわかってねえんだな」 「はい……スミマセン」 本題に踏み込む前にさっそくノックアウトされました。 「まず抑揚がなく、どこが重要ポイントか聞いててわかりづらい。それからパソコンに向かって話すな。伝える相手は何十人いると思ってるんだ。聞き手の顔を見ろ。しかも表情が暗すぎる。自信のなさが顔に出ているぞ」 矢継ぎ早に言われてぐうの音も出ません。 「いいか、この薬剤の利点は即効性があり、同効薬と比較して薬価が低めに設定されていることだ。しかも糖衣錠なので苦くなく、飲みやすいこともポイントだ。そこをよく把握しておけ」 「なるほど。つまり、早くて、安くて、うまいんですね。そう言います~」 「なんで牛丼屋や節約レシピみたいなフレーズに変換するんだ!」 「ひーん、だっておんなじ意味じゃないですかぁ~」 「医者に医学用語で解説できなくてどうする!」 呆れたようで天井を仰いでため息をつく高坂先輩。 「それにこの薬剤は対照薬との比較試験を行い有効性の高さが証明されているものだ」 「つまり、ガチンコ対決で勝利したってことですね!」 「だからいい加減、学生気分の話し方はやめろ!」 「ひ-ん!」 「いいか、とにかくエビデンス(科学的根拠)に基づいた有用性を強調するべきだ」 「えと、今なんて? エビで酢の物突っついたUFO星……?」 「貴様、なに面白空耳変換やってるんだ!」 「だってそう言ったじゃないですかー!」 高坂先輩は私をコテンパンに罵った後、眉間に谷底のような深いしわを寄せて首を横に振りました。 「……これは人前に出せるような代物じゃないな。スライドだけじゃなくて、お前自身もブラッシュアップしてこい」 わたしの顔に視線を送ってから放った、蔑むようなその言葉。それは社会人としての未熟さを容赦なく浮き彫りにしたひとことでした。
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