おでこのにきび様

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★ その夜、シャワーを浴びているわたしのおでこに、ふたたびにきびの顔が出現しました。 「にっ、にきびのお化け! また出たぁ~!!」 「クックック、自力ではいかんともしがたいところまで来てしまったようじゃな。ちなみにワシはお化けではなく神な。そこを取り違えるなよ」 驚きはしましたが、あの日以来消えることがなかったものですから、やっぱりわたしの様子を見ていたのだと腑に落ちました。 「おぬしは今、崖っぷちにおる。だからわしが背中を押してやりに来たのじゃ」 「崖っぷちで背中押されたら転落しちゃうじゃないですか!」 けれどたしかに現状のわたしが頼れるのはおでこのにきびしかいないようです。 さんざん迷いましたが、悪いにきびではなさそうですし、自称は神のようなので、おっかなびっくりお願いしてみます。 「相談に乗っていただきたいのですがよろしいでしょうか、にきび様!」 「ほう、ついにワシを頼る気になったか」 にきび様はわたしが折れると確信していたらしく、自信満々に言い返してきました。 悩みは星の数ほどありますが、解決できる方法なんて簡単に見つかるものではありません。でも神様なら何とかしてくれるかもしれません。 「わたし、自分に自信が持てるようになりたいんです!」 その裏にあるのは、辛辣な高坂先輩を見返してやりたいという反抗心です。 するとにきび様はひょうひょうとにきびの口を開きます。 「冷静になれ、川村殿。最初はだれもが初心者じゃ。だが初心者とは努力さえすれば必ず報われる恵まれた立場じゃからな。逃げればそれまでだがの」 にきび様がわたしのおでこで正論を吐いています。 「でも、明るい笑顔を振りまいて話すのが恥ずかしくて、気持ちがブレーキをかけてしまうんです」 「それならば、まずは人間の心を捨てるのじゃ。無心で餌を頬張る畜生になれ。そう、いっそのこと社畜になれば済む話だ」 「しゃ、社畜ですか!? そうおっしゃるにきび様は鬼畜ですか!?」 「ふむ、なかなかの鋭い切り返しだ。ちなみに『社畜』とは、かつて『企業戦士』と呼ばれた社会の英雄と同義でもある。そう考えると身を削って社会に貢献する立場も悪くなかろう?」 「企業戦士……なんだかかっこいい響きですね」 にきび様はにっと笑ったようです。なぜならおでこの皮膚が引っ張られたような感じがしたからです。
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