3183人が本棚に入れています
本棚に追加
/301ページ
私は一気に肩に力が入る。反対に手や足の力は抜け、ソファーへ座り込みそうになる。
今、自分はどんな顔をしているんだろうと呆然としながら口を開く。
「うん、わかった」
「え?」
次は成田くんが呆然とした。
その顔を見て私は吹き出し、笑う。
「んな訳ないでしょ。そんな冗談には引っ掛からないから」
いつも涼しい顔をしている彼が微笑む。
「驚かせるつもりが驚かせられるとは……やられた」
「残念でした。見え見えだよ」
「俺が冗談言ってること見破れるのは二葉だけだ。ポーカーフェイスやら何考えてるかわからないやら色々と言われるけど、お前にはお手上げ」
「3つ星シェフでも修行が足らないわね。じゃ、シャワー借りるね。覗いたら髭剃りでひっかくから覚悟して」
「覗くわけないだろ。キレたお前なら髭剃りでひっかくぐらいじゃ済まないことぐらいわかってる」
私はわざと不敵な笑みを返した。
「二葉、今すごい顔だぞ。あのさ、悪いけどシャンプーやコンディショナーは俺のを使ってくれないかな」
「え?でも受付でもらった宿泊セットに入ってたよ」
「頼むよ、俺のを使ってくれ」
「うーん、よくわからないけどわかった」
私は不思議に思いながらもシャワーを浴びに向かった。
浴室は全面が真っ白で、照明が反射し眩しい。
相変わらず浴室自体が大きく、浴槽と別にシャワー専用ルームも併設してあり、前回見学したときより変わらないはずなのに、広く見える。
シャンプーやコンディショナーなど、ブランドで揃えてあった。
市販の物と違って匂いが弱く無臭に近い。
一流の料理人は味覚や嗅覚を大事にするため、タバコや香水など匂いが強いものは絶対にしないと聞いたことがある。
でも、まさかシャンプーやコンディショナー、ボディソープにも徹底しているなんて考えもせず、さすが一流だなと心底尊敬する。
だから宿泊セットのシャンプーを使わないで欲しかったのかぁと納得した。
最初のコメントを投稿しよう!