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「そう言うなって。本当は安いなんて思ってないさ。俺に見栄ぐらいはらせろよな」
「今さら見栄なんてはってどうすんのよ」
「まあ、確かにな。これは俺なりの励ましだ。泣いた分飲め。水分不足で倒れる前にな」
成田くんの言葉が心にしみた。
いつもクールで冗談なんて滅多に言わない彼が、精一杯明るく接してくれている。
「うるさいなぁ。シャワー浴びるんじゃなかったの?」
照れ隠しに必死で、強い口調が続いてしまう。
「あ、そうだった」
彼は立ち上がり「二葉、つまみも食べろよ。俺の食べかけで悪いけど」そう言って浴室へ消えた。
……ふうぅぅ
無意識に息を大きく吐き出す。肩の力が抜けると共に気を張っていた心を落ち着けた。
今さら乾いたアスファルトのように目が熱くなっていることに気づく。ひりひりと痛い。
喉も同じように乾いていて水分を求めている。
置かれたワイングラスへ手をかけると驚いてつい離した。とても冷たく、私の手のひらの形がグラスに跡を付けている。
私がシャワーから戻ってくるすぐ前に、冷蔵庫からグラスを出してくれていたことがわかる。
余計に喉が水分を欲した。
同じようにきんきんに冷えた白ワインのボトルを取り、一気にグラスへ注いだ。
仕事でお客様のグラスへ注ぐときは1滴もこぼさないよう細心の注意をいつも心がけている。けれどそのストレスを発散するかのように豪快に入れた。
琥珀色を楽しむどころかグラスをワインで満たすなり口へ運び、ダムが決壊したかのように勢いよく胃へ流し込む。
「……っぱぁ……うまっいっ」
声にならない歓喜の声を出す。
生ビールのCMの女優よりおいしそうな飲みっぷりだと自信があった。
お酒には弱い部類に入るのに、たて続けに2杯を口に運ぶ。
気づけばボトルの半分が無くなっていた。
まさに……やけ酒。
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