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「ところで、親父さんは? まだ中に?」
「ああ。昨日までの現場を、コイミズ様と確かめているよ」
噂をすれば……というやつだ。天幕からコトノハ堂の主人ユキヘイと、濃紫の腕章を付けた男が出てきた。
セイタロウは背筋を伸ばし、敬礼で静止した。濃紫の腕章を付けられる者は、刑番所に一人しかいない。百余人の所員をまとめる、所長コイミズだ。
片側に垂らすようにゆるく束ねた髪は金茶色。瞳は青緑。一目で異国の血が混じっているとわかる。
コイミズは天幕を出るなり、持参した日傘を差した。傘とともに彼の口が開かれると、辺りは蝉の声も掻き消されるほど騒々しくなった。
「やだ! お気に入りのスカーフが汗でびちゃびちゃ! ユキちゃん、これ洗ってちょうだい! 明後日には届けてね!」
女言葉の男は、首に巻いた牡丹柄のスカーフをしゅるりとほどくと、お気に入りにも関わらず無造作に投げた。それを文句も言わずに、恭しく受け取るユキヘイは、まるで彼の僕だ。
二人は子供の頃からの付き合いだと言うから、ショウスケには見慣れた光景だが、尊敬する父を顎で使われるのは気持ちのいいものではない。
目を逸らすようにしていると、コイミズの方から水を向けてきた。
「おやおや、ショウスケ。そんな所に突っ立って……仕事はもう終わったのかしら?」
今朝起きた騒ぎの詳細を記した書面を、何食わぬ顔で差し出す。相手にしてみたら、「まだ」と慌てふためき頭を下げる姿を期待していたのだろう。ショウスケのそつのない態度が面白くないのか、書類を受け取ったコイミズはふんっと鼻を鳴らした。
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