第三話 硝子の小鳥。

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 コトノハ堂の父子が、夢から引き摺り出されて向かったのは──。  花の色街、常闇の歓楽街などと呼ばれるクラサワの夜の街。街の一区画を黒い天幕で覆い、永久(とこしえ)の闇を作っている。闇の内に美酒と美姫を囲った店を連ね、本物のの間だけ天幕を取っ払う。月と星が沈むまで、一夜(ひとよ)の夢を売る街だ。 「主人様(あるじさま)が……色街に!」 「どうしたんです、そんなに青い顔をして。ああ……、心配なのかい?」 「ええ、とっても心配でございます!」  ショウスケは真面目だから、店の女に入れ込んで放蕩したりはしない。キョウコもその点は心配していない。だが逆はどうだろう。家柄良く、見目も良く、おまけに人柄も良いショウスケに本気になってしまう女がいてもおかしくない。 (そうしたら、優しい主人様は無碍にできないのではないかしら……)  見る間に表情が険しくなっていくキョウコに、奥方も同調して眉をひそめる。 「そうねぇ、こうも立て続けに同じ場所で同じ事件だなんて……、気味が悪いものねぇ」  奥方が心配しているのは、キョウコとは違うようだ。 「ああ、考え出したら不安でしょうがないね。こうしちゃいられない! 厄除けのお札を享けにいかないと」  思い立ったら行動の早い奥方は、番頭に留守にする旨を伝えて、手早に出かける準備を整えてきた。  厄除けと言ったら、このクラサワではゴボウジ。菩提寺でもあるので、奥方は慣れた足取りで供もつけずに出かけて行った。  後ろ姿を見送るキョウコは頭の中で、奥方の言葉を反芻する。 (連続事件?)  どんな事件だというのか。今日に始まったことではないのに、なぜ知らされていなかったのか。その辺は考えるまでもなく、ショウスケが意図して隠していたのは明白だ。  気掛かりはたくさんあるが、やらねばならない仕事も山ほどある。  賢いキョウコはエプロンの紐を締め直す。てきぱきこなせば、空き時間もできよう。ショウスケが帰ってきた時に、一緒にいられるように早速仕事に取り掛かった。  一日はまだ始まったばかりだ。
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