第三話 硝子の小鳥。

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「すまないな、今日も今日とて呼びつけて」  髪を短く刈り込んだ青年は額の汗を拭って、シャツの袖口のボタンを外した。捲り上げて折り込んだ際にずれてしまった腕章には、「刑番所(ケイバンショ)」の文字。階級下の彼の腕章の色は薄墨色だ。  天幕から出てきたショウスケは旧友の差し出した手拭いで汗を押さえる。 「いや、それが僕らの仕事だから。セイタロウが気に病むことではないよ」 「しかし、この暑さだからな……」  梅雨が明けた途端に陽射しはきつくなり、夜明け間もないというのに、じりじり灼かれた空気が熱い。  まして色街は真っ黒な天幕で覆われているので、風は通らず蒸し風呂のようだ。 「店の娘どもでさえ、夏の昼間は宿を移してるっていうのに、何が悲しくてこんな灼熱地獄に足繁く通ってるんだろうな。……木乃伊(ミイラ)になっちまったら、ごめんな。ショウスケ」  すっかり参ってしまった様子のセイタロウの背中を、元気づけるようにショウスケは叩いた。シャツが汗を吸って、じっとりと濡れている。 「そうだ。この件が落ち着いたら、氷冷糖(ひょうれいとう)でも食べに行こう」  近年、氷を産み出す機械(カラクリ)ができて、夏には冷たい甘味を楽しめる店が増えた。  最近は、細かく砕いた氷をグラスに入れて、梅や桃のシラップ漬けを混ぜて食べる氷冷糖が流行っている。匙ですくって食べるもよし、溶けた氷水を流し込むもよし。火照った夏の体を涼めてくれると評判だ。 「……そうだな。氷冷糖は夏に食うのが美味いんだ」  セイタロウはいくらか元気を取り戻した声で言った。ショウスケには、夏が終わるまでに事件に片をつける、そう言っているように聞こえ、頼もしかった。
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