第一話 恋の障害は歳の差だけか。

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 ショウスケは、クラサワの街ではわりと知られた存在だ。  家は代々、街に唯一の特殊な店で、「コトノハ堂」と名乗れば迷子になっても平気だった。  コトノハ堂は「代書屋」「文字屋」「書記屋」などと呼ばれることもある。とにかく「書くこと」に特化した店だ。住人のちょっとした代筆を請け負うこともあれば、お役所の重要な文書の作成に協力することもある。他に、街で起こった事件や事故の記録を取るのもコトノハ堂の大事な仕事だった。  一人息子のショウスケは跡継ぎとして、幼い頃から父親にくっついて仕事を学んだ。それでこの歳になるまでには住民とはほとんど顔馴染みだったし、お役所にも顔がきくようになっていた。  それにこの頃は、ショウスケの見目の良さから、彼を放っておかない者が増えてきた。  母親譲りの濡羽色の柔らかな髪は、耳が隠れるくらいに伸びているが、だらしない様子はなく、優しげな印象を与えた。顔はどちらかと言えば父譲りだ。切れ長な目は涼しげだが、わずかに口角の上がった唇はどこか幼くて、その危うさが妙に色っぽいと密やかな評判だった。  街行けば、年頃の娘たちは競って彼の袖を引き、娘を持つ親は縁談を持ちかけたりと、彼の意に反して通りを賑わして歩くこととなった。
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