冒険者ギルドへ帰還です!

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冒険者ギルドへ帰還です!

「はーいみんな起きて。朝だよー」  手を叩きながら、ベテラン女性兵士がテント内で目覚まし時計の代わりを務めた。  ……眠っていたのか。  私はゆっくりと横たえていた身体を起こした。夕べエンとあんなことが遭ったから眠れないと思っていたのに、けっこう図太いんだな私。  ……なんてね。マキアがいろいろ気配りしてくれたおかげだよね。男に刻まれた恐怖心を、同じ男であるマキアが和らげてくれた。 「ふぁ、おはよ……」  長い黒髪を掻き上げながら、隣で寝ていたミラが朝の挨拶をした。 「ほらマリナも起きなって」 「うう~ん、あと五分だけ……」 「これでロックウィーナとお別れになるんだよ?」 「はっ、そうだったわ!」  マリナは跳ね起きて私に抱き付いた。相変わらずおっぱいが見事な質感だ。 「寂しい! せっかく仲良くなれたのに!!」  私達冒険者ギルドメンバーはフィースノーの街へ、王国兵団第七師団は王都へ帰るので、ここからは違う旅程となるのだ。 「フィースノーの街へ来ることが有ったら、ぜひ冒険者ギルドに立ち寄ってよ。誰かしら居ると思うから」 「ロックウィーナもね、王都に来る用事が有ったら事前に連絡をちょうだい。重要任務が無い限りは休暇を貰えると思うから、三人で女子会しましょうよ」 「ああ、そりゃいいね」  私達は互いの連絡先を紙に書いて交換した。また会えることを期待して。  テントを撤去し、清掃作業を終えた後に名残惜しいが私達は別れた。久し振りにできた同世代の女友達。彼女達との交流は楽しかった。 「十五分後に出発だぞ! 忘れ物が無いか最終チェックをしろ!!」  隊長クラスの兵士が号令を掛けていた。私は急いでギルドのみんなの元へ向かった。  着いた冒険者ギルドのエリアもすっかり片づいており、馬車の前で男達が私を待っていた。アルクナイトが一歩前に偉そうに進み出た。 「遅いぞ小娘。それでは本日の馬車の組み合わせグーパーを開始する」  今日もやるのか。 「あれ? 人数が少ないような」 「ああ、執事のジジイは昨日と同じく不参加だ。ワンコとニンジャーズも今日はいいと言ってあっちの馬車にもう乗っている」 「……そっか、マキアはあっちなんだ」  ついうっかり呟いてしまった私の発言を、光の速さで男達が拾った。 「何だよウィー、マキアが居ないことが寂しいのか!?」 「あんなワンコがなんだ。ちょっとは可愛いかもしれんが、少年になった俺の方が断然イケてるだろうが」 「可愛いは僕が一番でしょう?」  面倒くせぇ。  エンと離れられたことにはホッとしたが、正直言ってマキアには傍にいて欲しかった。……でもそんなことを思っちゃ駄目だ。私ったら以前キースに造ってもらっていた安全地帯を、今度はマキアにお願いしようとしている。誰かに護ってもらおうとする癖を直さないと。 「……四人があっちの馬車なら、残った全員でこっちの馬車に乗れるじゃない。馬車は六人乗りなんだから」  残っているのは私、ルパート、キース、リリアナ、エリアスにアルクナイトだ。 「ふっ、目障りなライバルは少しでも減らす」 「そういうことです。いきますよ、グーパー!!」  全員いい歳をして馬鹿なのか。そうなのか。  結局私と同じグーを出したキース、エリアス、アルクナイトが同じ馬車となった。 「はっはっは。運が無かったな。さっさと前の馬車に乗り込んで、満員御礼ミッチミチの男祭りを開催するがいい」  肩を落としたルパートとリリアナへ魔王が追い打ちを掛けた。悔しそうなルパートは背後からルービック師団長に肩を叩かれた。今日も白銀の鎧が眩しい。 「ルパート、ずいぶんと世話になったな」 「いえ、こちらこそです師団長」 「達者でな」 「第七師団の皆さんも」  ルービックと冒険者ギルドは、アンダー・ドラゴンの件で以降も連絡し合う取り決めだ。しかし何処にスパイが潜んでいるか判らないので、「これで完全にお別れだよ」という白々しい芝居をしている。 「ああ~、もう会えないなんてヤダよ~」  横から私に抱き付いてきたのは、すっかり調子を取り戻したマシュー中隊長だった。エドガー連隊長のカウンセリングが効いたらしい。 「せっかく仲良くなれたのにな~」  マシューは私の頭に自身の頬をグリグリ擦り付けた。裏切り者のグラハムを騙す為とはいえ過剰演技では? 周囲の男達が目の笑っていない笑顔で見守っていた。  そんなお騒がせ聖騎士も自分達の馬車へ乗り込み、私達はいよいよ出発となった。  ガラガラガラガラ。  兵団が向かう先とは違う方向へ、私達が乗った馬車は走り出した。遠ざかっていく第七師団の兵士達へ、車窓を通して手を振った。 「ギルドメンバーが、全員無事に帰ることができて良かったです……」  感慨深そうにキースが言った。時々呪いの言葉を吐くが彼は基本仲間想いだ。兵団には犠牲となった兵士が出た。今回は本当に危険な任務だったのだと改めて思う。 「そう言えばロックウィーナ、昨日マキアとエンが喧嘩したらしいんですが、あなたは理由を知っていますか? マキア曰く、つまらない口論から喧嘩に発展してしまったそうですが」 「あの能天気なワンコが忍者を殴ったんだぞ」  ドキリとした。 「いえ……何も」  私の醜聞とならないようにマキアが動いてくれたのだから、私は何も知らない振りをしないと。 「ま、仲が良い者ほど喧嘩をすると言うからな。ワンコと忍者がじゃれ合っただけだろう」 「僕とあなたは仲が良くないのに喧嘩ばかりですよね?」 「それはアレだ……白。おまえは潜在意識で俺のことが好きなんだ」 「ヒッ!? やめて下さい、鳥肌が立ちましたよ!」  アルクナイトとキースのやり取りを見たエリアスが感想を述べた。 「何だ二人とも、俺が知らない間にずいぶん気安い仲となったんだな」 「そんな訳ないです」 「ヤキモチを焼くなエリー。安心しろ、おまえは別格の友だ。代わりとなる者は居ない」 「……そういうことを皆の前で言うな」 「おまえは俺の領地やソルとの戦いで愛を叫んだじゃないか」 「時と場所を選べと言っている」 「え、何この人達。ピンク色の空気が見えるんですが」  魔王のストーカー行為で一度は仲がこじれたけれど、エリアスとアルクナイトの絆は深い。普段うるさがっているのに、アルクナイトの危機にエリアスはいの一番に駆け付けた。  マキアとエンもきっと同じだよね。親友が馬鹿な真似をしたからマキアは怒った。でも……お互いに気持ちが静まれば、また前のような関係に戻られるよね? 私のせいで二人の仲をギクシャクさせてしまった。  マキアは悪いのはエンだから気にするなと言ってくれたけど……。 (気にするよ。夜に呼び出されて男にノコノコ付いていった、私の危機感の無さも喧嘩の要因の一つなんだから。ごめんねマキア)  ルパートにも何度か忠告されていたのに。男の性衝動を甘く見るなと。ま、当の本人も私を押し倒してきたけどね。だけど彼は最後まではしなかった。自分の意志で止めてくれた。エリアスとアルクナイトもそうだったな。  エンと比較して年長組は急ごうとしない。私のペースに合わせようとしてくれる。女性慣れしていてあまりガッツかないのかな? みんな経験済み? 「ロックウィーナどうかしたか? そんな難しい顔をして」 「皆さんの女性遍歴が気になりまして」  率直に答えたもんで男達が噴いた。  異性のそのものズバリは聞きたくてもなかなか聞けない。ルパートとマキアの恋愛事情は多少教えてもらえたけど、他の男性陣については未知の世界。だから今までずっとモヤモヤしていたのだ。 「……おい小娘、急に何を言い出すんだ」 「気になるんだもん」 「開き直ってぶ~たれるな。そんな態度も可愛いけどな!」 「だってズルいじゃん。私なんて交際経験が一度も無いことも、スリーサイズまでバレちゃってるのに、プロポーズしてきた皆さんはそこら辺の情報を開示してくれないじゃない」 「う……」  珍しくアルクナイトが(ひる)んで、代わりに苦笑交じりにエリアスが答えた。 「結婚を考える相手の身上を知りたいと思うのは当然だ。安心して欲しい、私には愛人も隠し子も存在しない」 「はいエリアスさんは誠実な方ですから、二股掛けは無いと信じています」 「ロックウィーナ……」  感動しかけたエリアスだったが、 「私が知りたいのは過去の女性関係です。覚えている範囲で構いませんので、具体的な交際人数と肉体関係に至ったかどうかも、ちょちょっと教えて頂けると非常に助かります」  私の踏み込んだ質問に再び彼は噴いた。 「ゲホゲホッ、どうしたんだロックウィーナ、あの男の受付嬢に身体を乗っ取られたか!?」 「いーえー。これが私の地ですよ」  私は軽く息を吐いた。 「未経験だからみんな私を純粋な女だって認定してますけど、そんなことはないです。勇気が無くて一歩を踏み出せないだけで、内心では男の人とお付き合いしたいって日々思ってます」  恥ずかしいけど本音を言った。比較的落ち着いている年長組に、私を知ってもらうこれは良い機会だ。 「私は清らかな聖女じゃありません。えっちなコトにだって興味有るんです。ちょっと怖いし、好きになった人とじゃなきゃ絶対に嫌ですけど……」  エンに襲われた時は全身で男を拒絶した。でも護ろうしてくれたマキアが居た。彼が示してくれた勇気と優しさのおかげで、私は男性嫌悪に陥らずに済んだのだ。  エンだって…………普段の彼は親切な人だ。もう一度信じたい。 「ですから私を変に美化せず、生身の一人の女として見てもらいたいんです!」  私はずっと抱えていた鬱憤(うっぷん)をぶちまけた。 「………………」 「………………」 「………………」  男達は全員目を見開いて私を見ていた。  軽蔑されたかな? 思っていたのと違うとガッカリされたかな?  それでも聖女と思われるよりはずっといい。みんなが私に理想の女性像を押し付けているようで、少し苦しかったんだよね。私も八方美人になっていた。  これで嫌われてしまっても仕方が無い。これが私なんだもん。
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