合宿中は恋のフラグが乱立する!?

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 ルパートと二人で人混みを避けるように、かなり遠回りをしてテクテク歩いた。それでも十分もしたらギルドの馬車が見えてきた。  もう他のみんなは乗り込んでいるのだろうか? 私も合流しないと。 「それでは私はここで。自分の馬車へ戻りますね」  ところが名残惜しそうに、ルパートが繋いだ手を放してくれない。 「……昼休憩の時にまた会えるよな?」 「は、はい。夜はまた女性兵士のテントへお邪魔しますが」 「そうか。じゃあまた昼にな」  反則級の爽やか笑顔を私へ向けてから、ルパートはようやく手を解放してくれた。これではまるで付き合い始めのカップルのようだ。そんなことは全然無いのだけれど。 「おはよ、ロックウィーナ。何かイイことでも有ったん?」  馬車へ乗り込んだ私へ開口一番、マキアがよく解らない挨拶を投げ掛けてきた。 「へ? 何で?」 「顔、めっちゃニヤけてるよ」 「!」  私は思わず両手で頬を押さえた。……ニヤけてた? 自覚が無かったけど私は笑っていたの? ずっと? ルパートの前でも!? 「違ーーーーう!!!!」 「うおっ!」 「きゃあ!?」  うっかり大声を出してしまい、マキアとリリアナが身構えた。エンと執事のアスリーは普段通りだ。殺気を感知しない限りは動揺しなさそうな二人だ。 「……驚かせてゴメン。でも特にイイことは無かったから。断じて違うから」 「そ、そう?」  明らかに引いているマキアを横目に、私も馬車の座席に腰掛けた。  ふう。なんてこったよ。気が緩み過ぎだ。ルパートと距離が縮まったことを喜んでいるみたいじゃないの。  そんなことは有り得ない。昔と違って今の私は彼に恋をしていない。 (でもルパート……、私とキスできて嬉しかったって) 「うっきゃああぁぁ!!!!」 「何だぁ!?」  また大声を、と言うより派手に叫んでしまった。ルパートと交わしたキスを鮮明に思い出してしまったよ。顔から火がでる程に恥ずかしいぃ。  リリアナが私の顔をジッと見つめた。 「お姉様……何か有りましたね?」 「ひぇ!? な、何も無いよ?」 「嘘。私の目をちゃんと見て下さい」  逆に視線を逸らしてしまった私。リリアナは形良く整えた眉を跳ね上げて舌打ちをした。 「誰かが抜け駆けをして、お姉様にアプローチしたのね!」  ギクッ。 「誰が!? まさかお子様のアナタ達じゃないですよねぇ?」  不機嫌になった受付嬢はマキアとエンを睨みつけた。 「お子様って……。キミの方が年下じゃん」  マキアはリリアナの迫力にタジタジだったが、 「アプローチの機会が有るとすると、昨日の夕食後からさっき馬車に乗り込むまでの間だな」  エンはしれっと推理モードに入っていた。そう言えば彼は犯人捜しが得意だったな。彼が今日も本を開いているので私は尋ねた。 「エン……。よく読書しているけど、好きなジャンルは?」 「推理小説だ」  やっぱり。  リリアナが腕組みをした。大きなおっぱい(詰め物)が腕に挟まれて強調された。 「夕食後か……。けっこう皆さん、テントを出たり入ったりしてましたよねぇ」 「全員の退出時間を表にしてみよう。行動目的と照らし合わせて、空白期間が多かった者が第一の容疑者だ」  嫌ぁ。忍者が本格的に犯人捜しをしているよ! ルパートが犯人だと特定されたらリリアナに撃たれるかも! 「いいじゃんよ、誰でも」  しかしここでマキアのストップが入った。 「ロックウィーナはもう立派な大人なんだ。誰とデートしたっていいじゃんか。外野が騒ぎ立てることじゃないよ」  ま、マキア~~~~!! 「そ、それはそうですけどぉ……」 「……その通りだな。興味本位で騒いですまなかった、ロックウィーナ」  追及者二名は確実にトーンダウンした。良かったぁ。  救いの主となったマキアをチラリと窺うと、彼はリリアナやエンから見えないように私へウィンクした。意識して助けてくれたんだね、ありがとう。 「ほっほっほ、青春ですなぁ」  アスリーの締めで私のデート相手推理大会が終わった。25歳の私が青春時代だと主張しても良いかどうかは疑問である。 ☆☆☆  昼休憩だ。隊は荒野で進軍を止めた。三時間ほど馬車で揺られて固まった身体をほぐしながら、ルパート達と合流して昼食を摂った。  ルパートに会うのは緊張したが、他にもメンバーが居たので特に何も起こらなかった。良いのか悪いのか。 「小娘、俺に逢えなくて一日千秋の思いで過ごしているのだろう? 可哀想に」  代わりに魔王が世迷言(よまいごと)を吐いてきたが華麗にスルーした。  昼食後は女性兵士エリアでトイレを済ませた。本当、彼女達が居てくれて助かっている。 「あれ、マキア」  馬車へ戻る途中でマキアと偶然に出会った。彼も用足しかと一瞬思ったが、男性ならわざわざ遠くへ行かなくても事足りるよね。 「ロックウィーナも散歩?」 「まぁね」  私はトイレだったのだが話を合わせた。そうか、彼は散歩していたのね。 「座りっぱなしで腰が痛くなるよな。兵士さん達は馬に直接乗ったり、乗り心地が悪い荷馬車が大半だから俺らはまだ恵まれてるけど」 「だね。でも私も身体がキツイよ。思いっ切り訓練場で身体を動かしたいなぁ」 「はは、ロックウィーナは武闘派だもんな。あ、悪い意味で言ってるんじゃないから!」  マキアは何故か慌て出した。 「……気を悪くしてない? 女の人は逞しいとか言われるの嫌がるからさ」 「ああ、そういう人も居るけど私には褒め言葉だよ。伊達に出動班に居ないって」 「あはは、キミはさっぱりしてるよね」 「そんなことないよ? 失恋を六年間も引き()ったもん」 「そうなの!? 最後はどうケリを付けた!?」 「文字通り蹴りで」  私はその場で回し蹴りを披露した。 「うわ、スゲェ」  前の周回でムーンサルトキックをルパートにかわされたのは悔しかった。安定しやすいサマーソルトにするべきだったか。その鬱憤を連絡係に叩き込んだからいいけどさ。 「やっぱキミはさっぱりしてるよ。俺とは違う」  マキアは笑ったが、何となく自嘲めいていた。 「……マキア、どうかしたの?」 「うん……」  マキアは立ち止まって目線を足元に落とした。 「俺は駄目なんだ。いっつもハッキリしない態度を取っちゃってる」 「そんなことは無いでしょう」  マキアは快活な青年というイメージだ。 「ううん。今まで付き合った女のコ全員に言われた。あなたは本音で私と向き合っていないって」 「………………」 「昨日エンが言った通りなんだ。俺が迂闊(うかつ)に相手を褒めてその気にさせて、それで付き合うことになるんだけどさ、いつも上手くいかない……」 「マキアは相手を、ちゃんと好きだった?」  下向きのマキアはつらそうな表情をしていた。 「素敵なコだと思った。だから褒めた。でも告白された時は、まだ恋をする前だった」  この点でマキアを責める気は無い。相手を知る為にお試しで交際を始めるカップルは大勢居る。 「付き合っていく内に、もっと好きになれると思ったんだ。実際にそうだったよ? 少しずつ気持ちは高まっていった。でもね、それでもね、相手との間に温度差が出ちゃうんだ」 「それはまぁ、そうだね。相手は大好きな状態でスタートしているのに、マキアはゆっくり好きになっていく訳だから。でもそれで怒るのは相手が悪くない?」 「いや、俺が悪いんだ。付き合う前に褒めてたからさ、向こうは俺も大好き状態でスタートしたと思ったんだよ。それが違った訳だから」  ああ、そうか。 「マキアは誤解させたことに罪悪感を感じて、相手が望む恋人を演じていたんじゃない?」 「!…………」  彼は唇を結んだ。図星か。これで「本音で向き合っていない」と繋がった。ただ相手に合わせていただけだったんだ。 「それは悪手だよ」 「うん……」  マキアは更に項垂(うなだ)れた。 「俺って、ホント最低。いい加減でダメダメなんだ」 「それは違う」 「違わないよ」 「違う。あなたは決死の覚悟で、私とキース先輩を助けてくれた。いい加減でも駄目でもない」 「え?」  記憶の無いマキアは怪訝(けげん)そうに顔を上げた。しかしすぐに、私がかつて説明して聞かせたことを思い出した。 「……そうだった。俺は前の周回で自爆していたんだったね」 「ええ……」  私は下げていた両手に握りこぶしを造った。私にとってはまだ十数日前のつらい記憶。目の前の友達が死んでしまったのだ。 「自爆するあなたは、凄く凄く熱かったと思う。離れていた私も空気に焼かれそうになった。あなたが道連れに掴んでいた連絡係の男は、半狂乱になって暴れていたもの。それでもあなたは呪文を唱え続けた」 「………………。きっと俺は自棄(やけ)になってたんだよ。その前に連絡係から剣をぶっ刺されてたんだよね? だからさ、どうせ死ぬならって……」 「ううん、死ぬならもっと楽な方法が有ったはず。でもあなたは私達を逃がす為に、自爆することを選んだんだよ。熱かったろうに、苦しかったろうに……」 「ロックウィーナ!? 泣かないで」  悔しさで涙が(こぼ)れた。あの時何もできず、護られているだけだった私。 「あなたは最後にレンフォードって叫んだ。気持ちを最大限に高める為に。そしてあなたは……あなたは…………」  言葉が詰まって出てこない。息が苦しい。マキアが私を抱きしめた。 「ごめん。もう自分を卑下しないよ。だからロックウィーナ、キミはそんな過去を思い出さないで」  マキアの言葉も震えていた。記憶は無くても、彼は自分が焼かれる夢を見ていたと言っていた。 「マキア……」 「……うん?」 「もう、悪夢は見ていない…………?」 「大丈夫、大丈夫だよ。連絡係を捕らえた日から見てない」 「そっか。良かった……」 「………………」  私を抱きしめるマキアの腕に力が込められ、私は彼の胸の中でしばし泣いた。
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