1-1 始まりの悪夢

2/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/361ページ
「はあ、はあ……っ! 誰か……!」  とある村で一人の少女が助けを求めていた。  少女は泣きながら走って災厄から逃げる。  ──助けて! 誰か……誰か!!  同じ村の住人に助けを求めても、住居の窓には人影すら見えない。蔦や木片で編まれた住居は燃えて灰となり、蔦はぼろぼろと崩れ落ちる。  少女は遠くへ、遠くへと走った。  しかし、災厄から逃げることは不可能に近い。災厄は腕を持ち上げて、その手に握られた大剣をそのまま振り下ろす。大剣は真っ黒で、影のようだ。  そんな災厄の顔に浮かぶのは、異常なまでの──傲慢さ(エゴイズム)。  だからなのか、災厄の双眸が前髪の奥でぎらついた。 「い、いやぁ!」  咄嗟に少女は悲鳴をあげて、腕で頭を庇う。 「ヒメカぁぁぁ!!」  誰かが少女の前に現れた。影は少女に大きな背中を向けて、少女を災厄から護るような体勢だ。 「ぐっ、がっ……!」  咄嗟に少女の前に現れたのが父親だと分かるも、既に致命傷ともいえる。父親は腹を切り裂かれて少女のほうへ倒れ込んだ。 「お父さん……お父さん!! だ、誰か! 誰か、助けて……っ!」  あまりにも残酷な悲鳴は彼女の平穏が壊されてしまったことを告げている。  それに、叫んでいるはずの声は、言葉は伝わるのに音にならなくて、響くことはない。
/361ページ

最初のコメントを投稿しよう!