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――え、ちょっとっ……
慌ててビールの缶を手で押さえる。
うなじがチリチリする。威圧的なお客に、神経が逆立っているのだ。
心細い時に限って、もう一人いるはずのアルバイトの姿は見あたらない。
――なんで、いないのよー
美織は男性客と目を合わせないように、うつ向いたまま手早くバーコードを読み取った。
――大丈夫大丈夫。コンビニのアルバイトを始めてから、もう三か月は経ってる。夜勤帯に仕事をするのは初めてだけど、手順はわかっているんだから
美織は落ち着いて、と自分に言い聞かせた。
急な欠員が出て夜勤を頼まれたときには、「夜間とはいえ店内は昼間と同じように明るいのだし、お客様も少ない。時給だって、25%も割り増しされる。むしろラッキーかもしれない」などと思っていた。
実際に勤務してみると、周囲は住宅街で大きな店もなく、街灯も少ない。店は闇にぷかりと浮かんだ流し灯篭みたいに、どこか心もとなかった。甘かったかも、と出そうになるため息を飲み込んだ。
――客層もさ……
「袋に入れて」
美織は、うっと息を止めた。
男性客から吐き出された息が酒臭い。男の横暴な態度の理由が分かった気がした。
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