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――助けを。バイトのあの人、名前、なんだっけ。呼ばなきゃ。名前、なんだった? 挨拶した時、なんて言ってた? 名前、名前、呼ばなきゃ。ええと、ええと
美織が動揺する様子を面白がっているのか、男はニヤニヤ笑って話しかけてきた。
「こんな夜中にひとりでコンビニで働くの、危ないよねえ? 変な人もいるしさあ」
目を覆っている前髪の下から、じっとりと美織を舐めるように見てくる。
――やだ。気持ち悪いっ! 助けて。助けて、誰か!
「お客様」
美織の後ろから低音の声がした。すっと手が伸びてきて、男性客の手首を上から握る。
「痛っ。っんだよ」
手にかかっていた圧力が、不意になくなり、美織はさっと手を引き抜いて、胸に抱え込んだ。男を睨む。全身がふるえる。
――泣かない。こんな奴に、涙なんか、見せるもんか
青と白の縦縞の背中がずいっと前に出て、美織を男から隠した。肩越しに美織を振り返り、「それ、お釣り?」と美織が無意識に握りしめていたこぶしを指さした。
「あ、は……い」
美織から小銭を受け取ると、男性客に拳を突き出すようにしてお釣りを押し付けた。
「はい、ありがとうございました」
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