1. 初めましては23時

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 男性客は何も言わずに、商品の入った袋をつかみ、そそくさと店を出て行った。  美織は、はぁーっと息をついた。今さらながら、恐怖が沸き上がってくる。ホッとしたら、ジワッと涙がにじんだ。  しかし自動ドアが閉まる瞬間、隣から「またお越しくださいませー」という声が響くと、浮かんだ涙は一瞬で引っ込んだ。 「え? やだっ。もう来なくていいんですけど」 「あっ、ゴメン、今の間違い」というと、自動ドアの方に向き直り、「二度と来るなーっ」と外まで聞こえる声で叫んだ。 「すっ、すみません~! 助けていただいたのに、文句つけるみたいに言って」  美織は勢いよく頭を下げた。 「いや、オレも習慣とはいえ、適当なこと言っちゃってゴメン。怖かったでしょ」と言って、ビニール袋に入った紙のおしぼりを美織に渡してくれる。  美織はコクコクとうなずきながら、男に握られた手をおしぼりでゴシゴシこする。ついでに店頭に備えられたアルコールで消毒もした。 「ほんと、ゴメン。危険な時は、すぐ呼んでいいよ」 「呼ぼうとしたんですけど……お名前が飛んじゃって。なんだっけなんだっけと思ったら、呼べなくなっちゃって……」
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