63人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
男性客は何も言わずに、商品の入った袋をつかみ、そそくさと店を出て行った。
美織は、はぁーっと息をついた。今さらながら、恐怖が沸き上がってくる。ホッとしたら、ジワッと涙がにじんだ。
しかし自動ドアが閉まる瞬間、隣から「またお越しくださいませー」という声が響くと、浮かんだ涙は一瞬で引っ込んだ。
「え? やだっ。もう来なくていいんですけど」
「あっ、ゴメン、今の間違い」というと、自動ドアの方に向き直り、「二度と来るなーっ」と外まで聞こえる声で叫んだ。
「すっ、すみません~! 助けていただいたのに、文句つけるみたいに言って」
美織は勢いよく頭を下げた。
「いや、オレも習慣とはいえ、適当なこと言っちゃってゴメン。怖かったでしょ」と言って、ビニール袋に入った紙のおしぼりを美織に渡してくれる。
美織はコクコクとうなずきながら、男に握られた手をおしぼりでゴシゴシこする。ついでに店頭に備えられたアルコールで消毒もした。
「ほんと、ゴメン。危険な時は、すぐ呼んでいいよ」
「呼ぼうとしたんですけど……お名前が飛んじゃって。なんだっけなんだっけと思ったら、呼べなくなっちゃって……」
最初のコメントを投稿しよう!