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「たぶんそれ、恐怖で頭がフリーズしちゃったんだね。オレは文月祥平です」
「ふづき……先輩」
「先輩? 同じ学校じゃないよね?」
「でも年上ですよね? わたし、大学一年なので」
「さん」というよりも「先輩」の方が親しいような気がするから、という本音はさすがに言えず、ごまかした。
「まあ、今日みたいな時、名前がとっさに出てこなかったら、センパーイって呼べばいいしね」
「はいっ」
勢いよく返事をすると、文月は目を細めて美織を見た。目が合うといたずらな顔になって、人差し指で美織の鼻を指さした。
「佐藤美織さん、だよね」
「あ」
美織の頬がポンッと熱くなった。美織は覚えていなかったのに、文月は美織の名前をフルネームで覚えていてくれたのだ。嬉しいけれど、はずかしい。
「美織ちゃんでいい?」
「えっ?」
「佐藤さんって、知り合いにもう一人いるんだよね。紛らわしいからさ」
「そうなんですね」
「じゃあ」と、気軽に手を差し出された手をそっと握る。美織の手が文月の手に包み込まれる。暖かくて、少し硬い。ほのかなシトラスの香りがふわっと香った。
――あ……。
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