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美織が店頭に出ると、すでに文月はレジを打っていた。後ろには、おばあさんが並んでいる。
美織はもう一つのレジを開け、「お次の方どうぞー」と声をかけた。お客様を待たせないように、という店舗のマニュアル通りの対応だ。ところがおばあさんは、困ったような顔をして、列から動かない。
――あれ? よく聞こえなかったかな? 耳が遠いのかも
美織がもう一度声をかけようとしたとき、文月から「美織ちゃん! ゴメン、32番のタバコ取ってもらえる?」と声がかかった。
美織はレジの後ろ側の壁にずらりとならんでいるタバコの中から、32番のたばこを取り出した。セブンスターのボックスを手渡すと、「あっちのレジ、開けなくていいから」と耳打ちされた。
「え?」
美織はなぜだろうと思ったが、接客中に聞くことはできない。並んでいたおばあさんの番になる。
「いらっしゃいませ」
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