1. 初めましては23時

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1. 初めましては23時

 美織は青と白の縦縞の制服の袖を、くるくると二、三回巻きあげた。制服のサイズはSなのだが、小柄な美織にはそれでも大きい。  24時間営業のコンビニといえども、夜11時を回ると、お客様はぐっと減る。美織が天井に設置してある防犯用の鏡で確認すると、店内には若い男性客が一人、冷蔵庫を開けてドリンクを選んでいるだけだった。  男性客の髪はパサついていて、茶髪の髪の下から黒い髪の毛が伸びてきている。ありふれたプリントTシャツに黒いパンツとごく普通の服装なのに、伸びた髪が目を隠しているせいか、どこかすさんだ印象がある。  美織は「ジャガリん」サラダ味のカップをクルリと回して正面に向けた。隣に陳列してあるじゃがバター味も、クルリと回してきちんと置きなおす。単純作業に没頭していると、「おい」と呼ばれた。 「あ、はいッ」  いつの間にかレジ前に男性客が立っていた。つま先で床を叩き、苛立ちを隠そうともしていない。  美織がレジに入ると、目の前にゴンッと大きな音を立てて銀色のビールの缶が数本と、袋詰めのおつまみがカウンターにバラバラっと置かれた。ビールの缶が転がって落ちそうになる。
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