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/// 3.人間として最低限の生活を
ボロを身に纏い、街を目指して歩き出す僕と火竜さん。
「目指すはマウント。そこで冒険者として登録します」
「おお!」
最初の目的地は最後に立ち寄ったマウントという小さな町に行くことに決めた。
小さいが宿も商店もギルドもある。何より一年近く何も食べていない僕は、身ぎれいにして何かを無性に貪りたかったのだ。
そして険しい岩山をゆっくりと降り始めると「えーい!まどろっこしい!どっちだ!」といって僕を後ろから抱く火竜さん。
突然のことにドキドキしながら街の方向を指さすと、そのまま高速で飛びあがり目的の街まで数秒という驚異的な記録を叩き出したのであった。
【精神耐性】がなければきっと粗相をしてしまっただろう・・・スキルのありがたみが身に染みた。
そして女性に抱きしめられて飛ぶという状況に恥ずかしさが止まらなかった。
マウントの街の入り口には警備の兵士が待機していた。しかしじろじろと僕らを見るだけで特になにも話しかけてはこなかった。
若干、火竜さんにはいやらしい視線が投げつけられていたが本人は気にしていないようだった。
「ところで・・・火竜さんはなんて呼んだらいいのかな?さすがに火竜さんじゃ困るし・・・」
「好きに呼べばいいけどな・・・他の同胞はサフィって呼んでたからそれでいいぞ!」
「じゃあ・・・改めてよろしくサフィさん。僕はタケルでいいよ」
そんなやり取りの中、まずはギルドにやってきた。もちろん宿に泊まるお金すらないからである。金策をしなくてはいけない。幸いサフィさんが生え変わるからいくらでもあるという鱗を一枚分けてくれた。というか50枚ぐらい渡され、僕の【次元収納】に入っている。
さすがに何枚も出すと怪しまれるし、とりあえず1枚の価値をしりたい。宿代にもならないことはないだろう。
しかし・・・前寄った時も思ったけど本当に荒くれ者が多いギルドだ。
ガタイの良い冒険者たちがこちらをニヤニヤとこちらも見ながら品定めをしているようだった。
その内、カウンターにたどり着く直前、一番奥にいた冒険者が二人の前に立ちはだかった。
というか、カウンターに職員誰もいないのですが・・・あ、奥にいますね椅子に足組んで目をつぶってますけど寝てます?
「おい!良い女を連れてるじゃねーか!俺にも味見させろよ!」
そんな理不尽なことを言って僕の肩を上から鷲掴みにするその冒険者。鑑定を使うと、その男はレベル180。僕よりはずっと低いレベルであるが、所持している【怪力】スキルを全開にして肩をつぶしにかかっている。
普通の人ならもう肩が潰れて出血死してるよね?なんてことを思っていた。
もちろん僕は肩口に食い込む指に痛みを感じることなく、その場で立っていた。
「ふぼらっ!」
次の瞬間、無様な鳴き声を上げてその男はギルドの壁に打ち付けられて気絶していた。
もちろんそれをやったのは火竜さ・・・サフィさんであった。
吹っ飛んだ男をみてニヤニヤと笑っていた。
「サフィさん・・・そのへんで・・・」
「そうか?周りの奴らも同罪だろ?全員殺しといたほうが世のためだ!」
にやりと笑うサフィさんの言葉に一斉に周りの冒険者が身を引いて俺は無関係といった表情を浮かべた。
その後、ようやく椅子から立ち上がってやる気のなさそうな声で「いらっしゃーせー」と業務を再開させた職員により、無事2度目の冒険者カードを作成することに成功した。
この世界ではギルドカードは特にスキルが浮き出るとかそんなものではなく、ただただ申告した名前で名簿に登録して、カードに血液を少し染み込ませることでカードの個別認証をするというものであった。
とりあえずは僕もサフィさんも新米冒険者としてFランクから始めることとなったので、さっそく【火竜の鱗】をカウンターに置き査定をしてもらった。
最初は偽物では?と思ったのかおかしな態度だったそのやる気なしな職員も、裏に行ってから数分立つと大慌てで戻ってくると、背筋をビッと整え、こちらに査定価格を告げた。
「査定の価格は、20万エルザとなります!よろしければ買い取らせていただきます!他にもあれば何枚でも同額で買い取らせていただきます!」
何やら急に礼儀正しい過剰な口調となってしまったその職員の言葉に耳を疑った。いやー手のひら返しがすごい。
「鱗ってそのぐらいですか?」
「俺が知るわけないだろう!」
「ですよねー」
20万エルザが妥当なのか分からず思わずサフィさんに聞いてみたが、考えてみたら分かるわけはなかった。
「価格については公正に査定させていただきました!あ、私はここのギルド長をしております、カルドニーと申します!お見知りおきを!」
「ま、まあその値段で大丈夫です。あとそれ貰いものだからそんなに緊張なさらずに・・・」
あまりに畏まっているその様子にいたたまれなくなった僕はあながり間違いではない鱗についての事実を伝えた。
「そ、そうでありましたか・・・でもそのようなものを貰える方である。というのは分かりました。こちらが20万エルザになります。お確かめを!」
「ありがとうございます」
幾分落ち着いてきたそのギルド長の言葉に、ほっとしながら大丈夫そうだと思った僕は、もう3枚ほど鱗をだして、出てきた80枚の金貨を受け取る。
これでとりあえずは宿に泊まることができる。そしてできれば風呂にも入りたい。
この世界にも風呂の文化は広まっている。なんでも異世界召喚は過去何度か行われているようで、その中の転移者が色々な文化を広めたという。
もちろん米や味噌といった調味料もある。
ギルドを出ると、この街の雑貨屋へ寄り、適当に衣服を何枚か購入した。そして宿まで足を進める。
宿に入ると、隣接している宿屋からにぎやかな声が響いていた。
宿の女将がこちらをいぶかしそうに見ながら「いらっしゃい」と声をかけてきた。
「一人部屋二つ空いてますか?」
「あいよ!」
「おい!なんて二部屋取る!一緒でいいだろ!めんどくさい!」
僕の言葉にせっかく女将が気持ちよく答えてくれたのに、それをぶち壊す発言をしたサフィさんがこちらを睨んでいた。
「おい女!一部屋でいいからな!」
「ひっ!は、はい!ご用意します!ナ、ナタリー!今すぐこの方達を203号室にご案内して!」
サフィさんの理不尽な恫喝におびえながら女将は奥にいる女の子に向かって叫んでいた。
「は、はーい!今すぐにー!」
そして走ってやってきたナタリーと呼ばれた少女は「こちらです!」と二階へ上がるように促した。
「あ、1泊いくらになりますか?あと夕食は食べれますか?」
「あ、ああーと、二人で夕食と朝食付きで12000エルザになります」
「じゃあ・・・驚かせたお詫びです」
そういって金貨を2枚置いた僕は促されるままに二階に上がっていった。
後ろから「ありがとうございます!」と声が聞こえてきた。
階段を上ると古ぼけた廊下が続き、促されるままに後ろを付いて歩くと、二人が本日泊まるであろう部屋のドアを開け「こちらです」と伝えられた。
中に入るとすぐに「何かあったら一階のカウンターに言ってくださいね」と可愛くお辞儀するとドアを閉めていった。
「サフィさんはあまり他の人を恫喝しないようにしてもらえませんか?」
「あれはお前が悪い!タケルが別々の部屋を取るなんて言うから俺もイラついたんだ!」
そんなことを言ってきたサフィさんに呆れるしかなかった僕は、その後お風呂の順番を先に譲ってきたサフィさんが、僕が体を洗って湯舟に浸かったタイミングっで入ってきたことで、スキルで感じないはずの精神疲労を募らせるという偉業を達成するのであった。
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