1-2 対峙

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「だから?」 クリシュナはごく短い言葉で聞き返す。 たったそれだけで、初老の男は二の句を継げなくなった。 「そんなことより、なんであんたらはここに来れた? 俺様クラスの天才か、よっぽど運か勘がいい奴じゃない限り、俺ん家には辿り着けねぇような細工がしてあったはずだけど。  ……まさか、ナーレ坊やがバラしたんじゃねえだろうな」  ここ数分で一気に老けこんだ初老の男から、隙あらば剣の柄に手をかけようとしている青年の方へと、クリシュナは視線を移す。  クリシュナが暮らしているハリの森は、地図に名前が載ってはいるが特に人の口にものぼらないありふれた森だった。  だが、クリシュナの住居であるこの小屋や、その他一部区域には人が立ち入れないように目くらましの術をかけている。  自由に行き来ができるのは、クリシュナの他に二人しかいない。 「ク……師匠。誰か来てるの?」  不意に、部屋の扉が開いた。  その隙間から金の髪の少女――サヴィトリが顔を覗かせる。  クリシュナは苦虫を十匹ほどまとめて噛み潰したような顔をし、煙草をテーブルに押しつけてひねり潰した。  テーブルについた手を支えとして初老の男とテーブルとを飛び越える。  唖然としている初老の男と青年を尻目に、クリシュナは扉を足で押さえつけた。サヴィトリは危うくはさまれそうになる。 「大人の会話だ。ガキは出てけ」 「大人――ああ。また嘘の連絡先教えられて、変な新興宗教に入信しかけた? でなければ慰謝料目当てのできちゃった詐欺に引っかかった?」 「阿呆! 人聞きの悪いこと言うんじゃねぇ! ……確かに色々引っかかってるけどよ、あのそのまあ、な。大人になると色々あるんだよ、色々!」 「あっそ。じゃあちょっと通りますよ」  クリシュナが取り乱しているうちに、サヴィトリは扉を押し開けようとした。  慌ててクリシュナは押し返す。だが思いのほか外側から強い力がかかり、サヴィトリが部屋の中に入るのを許してしまった。 「お忙しいところすみませーん。失礼しまーす」  サヴィトリの後に続いて、ヘタレっぽい雰囲気の茶髪の青年も中に入ってきた。頭をさげ、人好きのする笑顔をクリシュナにむける。
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