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「おいサヴィトリ! お前こそどういう了見だ! この家に野郎を連れこむなんざ、俺様は許した覚えはねえぞ!」
サヴィトリと茶髪の青年の行く手を遮るように、クリシュナは壁に拳を叩きつけた。木の壁がみしりと小さく悲鳴をあげる。
「ジェイ、あきらかに不純異性交遊を疑われているから責任とって切腹して事を収めて」
茶髪の青年――ジェイの肩をぽんと叩き、サヴィトリは軽薄に微笑む。
「……ねぇ、それって俺死んじゃうんじゃない?」
「当たり前だ。切腹して生き残るなど武士の恥と知れ」
「俺は武士じゃないけど」
「武士でなくても男の謝罪は切腹と決まっている」
(……昔からちょっとネジぶっ飛んだ子だったけど、今はもっと重要なパーツがぶっ飛んじゃってる気がする)
ジェイは頭をかかえ、こっそりとため息をついた。が、心の声がしっかり漏れ出ていたため、鳩尾にえぐるようなブローをいただいた。
(こいつどっかで見たことあんなぁ……?)
クリシュナは腕組みをし、不躾にジェイの顔をながめる。
女の顔と身体は覚えるが、男の顔はめったなことでは覚えない。にも関わらず、ぼんやりとはいえ自分が覚えているということは、それなりに重要な人間なはずだ。
(地味な茶髪に地味な面。どこにでも転がってそうなありふれた顔だから、既視感を覚えただけか……?)
クリシュナが記憶を辿っていると、ふと、該当する顔が浮かんだ。
最後に会ったのは数年前だが、成長させれば、目の前の青年の顔になる。
「……ん、ジェイって、おお、ほら、あれ。町の肉屋のガキか。ボーグのおっさんとこの。うちによく飯作りに来てたよなあ?」
クリシュナの問いかけに、ジェイはぱっと表情を明るくした。
そうですそうです! すぐに気付いてくださってありがとう! 本当にありがとう!! と今にもむせび泣きそうな顔をし、ジェイはクリシュナの両手を握って上下に揺すった。
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