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「相変わらず存在感の薄い面してんなぁ。ボーグのおっさんから、こせがれがコックの見習いになったとかって話は聞いたけど、仕事はどう――」
なれなれしくジェイの背中を叩いていたクリシュナの手がぴたりと止まる。
初老の男ら――北方の国クベラの近衛兵と同じ軽鎧を、ジェイも身に着けていた。クベラの紋章までしっかりはいっている。
「コックの格好、じゃあねえよな」
寂しげに呟き、クリシュナはサヴィトリの手首をつかんで自分の方へと引き寄せた誰の目にも触れさせないように腕で抱えこむ。
「師匠?」
サヴィトリにはわけがわからない。
息苦しさにもがくが、より拘束する力が強まってしまう。
「あの時寂しがってたからって、やっぱ親しいオトモダチなんてもんを作らせるべきじゃなかったか。よりによって、クベラの犬なんぞに成りさがってたとはな」
クリシュナは自嘲気味に言い、深くため息をついた。
自分とサヴィトリともう一人――今はここにいない弟子の他に、自由に小屋へ行き来できる人物が、あと一人だけいたことをクリシュナは思い出す。
確かナーレンダが出て行き、サヴィトリがふさぎこんでいた時にできた友達だった。いや、もっと前から友達だったかもしれない。
クリシュナは今まで決して、サヴィトリが友達を連れてくることを許さなかったが、その時だけは情にほだされてしまった。
気難しいところのあるサヴィトリの、初めての同年代の友達になってくれた少年。
その少年――ジェイに、ハリの森にかけた術の抜け方を教えても、これといって問題は起こらなかった――今にいたるまでは。
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