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「そのお方が、殿下――サヴィトリ様でございますな」
初老の男は興奮したように席を立ち、サヴィトリにむかって恭しくひざまずいた。
初老の男にならって、青年も同じようにひざまずく。
ジェイは困ったように眉尻をさげ、おろおろと落ち着きなく周囲を見まわす。
自分もひざまずくべきか、態度を硬化させたクリシュナに頭をさげるべきか、迷っているのだろう。
「ふん、ご尊顔を拝めただけでも充分だろ。さっさと出て行け」
「サヴィトリ様がご存命であるとこの目でしかと確認した以上、なおのことこのまま引きさがるわけには参りませぬ。どうかせめて、サヴィトリ様と話だけでも……」
初老の男は額を床にこすりつけて頼みこむ。
クリシュナは鋭い犬歯をむき出しにして笑った。初老の男の後頭部をためらいなく踏みつけ、踵でぐりぐりとにじる。
「てめえの面はちゃんと覚えてるぜ。十数年前、こいつを処分しようとしてた奴らの一人だったな。歳食ってハゲ散らかした頭の一つをさげたぐらいで、罪が悔い改められると思ってんのか!」
クリシュナはぐっと足に力をこめ、そのままサヴィトリもろとも身体を低く屈めた。わずかに遅れて、クリシュナ達の頭上を白刃がひらめく。剣風が髪の毛をかすめる。
状況に耐え切れず、近衛兵の青年が抜刀していた。
「先輩っ!」
ジェイが悲鳴のような声をあげる。
抱えていたサヴィトリをジェイの方に突き飛ばし、クリシュナは大上段から振りおろされた剣を素手で受け止めた。
正確には、クリシュナの手のひらに触れる直前で、何か見えない力に阻まれている。
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