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――このままでは埒があかない。
そう判断した少年は、力ずくで女の子を足から引きはがした。
ちゃんと自分の足で女の子を立たせ、目線を合わせるためにその場にしゃがみこむ。
女の子はせまい眉間に皺を寄せ、何かをこらえるように口を引き結んだ。赤くふっくらとした頬はぷるぷると震え、緑色の大きな瞳は溜まった涙でうるうると揺らいでいる。
再び、少年はこっそりと息を吐き、力を抜いてやるように女の子の小さな頭をぽんぽんと撫でた。
女の子は、ぶんぶんと音がするほど首を左右に振り、まばたき一つせず少年の顔をじっと見つめる。少しでも目蓋を動かせば、涙が押し出されてしまいそうだった。
「……サヴィトリ、僕は聞きわけのない子は嫌いだよ?」
少年はわずかに語気を強め、女の子の頬を両手ではさみこんだ。怒っているというアピールのために、弾力のある赤い頬を軽く押し潰す。そのせいで、薄く小さな唇がくちばしのようにとがった。
間の抜けた女の子の顔を見て、少年は思わず吹き出してしまう。
サヴィトリと呼ばれた女の子は涙を引っこませ、握り拳で少年を殴りまくる。
殴り方を知らない子供の攻撃は、骨の出っ張りがかすったりなどしてかえって痛い。
少年はまぁまぁとサヴィトリを押しとどめながら、背負っていた荷物を地面におろした。注目をそらすように少しわざとらしく中身をあさった。
ほどなくして、少年は空色の石がはまった銀の指輪を取り出す。色などは違うが、少年が右手の中指にしている指輪と同じデザインの物だった。
「なあに、それ」
指輪を見とがめたサヴィトリはぴたりと攻撃をやめ、少年の髪と同じ空色の石に熱い視線を送る。
問いかけに答えず、少年はサヴィトリの幼い左手を取った。
人差し指から小指まで順に指先で軽く押していく。
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