26人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごもっともなのでございます。先走った苔むした色の阿呆どものせいですが、御しきれなかったこちらにも非があるのでございます」
女は深々と頭をさげた。
「念のため再度ご確認させていただきますが、『災厄の子』という予言のおかげで廃嫡され、このハリの森で隠棲することになったサヴィトリ様、でお間違いないでしょうか」
「……またそれか」
サヴィトリは肩をすくめ、重苦しいため息をつく。自分に用事があるのはこんな輩ばかりだ。
「またこれなのでございます。うちの組合だけでももう七十八件、同じお依頼が来ているのでございます」
――サヴィトリ殿下の暗殺。
柄を軸に、差していた日傘をくるりとまわし、女はいわくありげに目を細めた。
「それでお前は、これからどうする? お粗末な不意打ちは失敗。『今のはほんの小手調べだ』と使い古された大口を叩いて氷像になった奴らは腐るほど見ている」
サヴィトリはにぃぃっと口の端を吊りあげる。
一緒に暮らしている養父がよくこういう笑い方をするため、自分にもこんな凶悪な笑みがうつってしまった。挑発にはいいが、日常生活には必要のない笑い方だ。
「……なるほど、でございます」
やや間を置き、女は嘆息する。
「このようなケダモノがお相手では失敗も当然なのでございます。雲行きも怪しいですし、今日は帰らせていただくのでございます」
と言って女は空を仰ぎ見た。
つられてサヴィトリも空に視線をむける。
そよそよと雲の泳ぐ、澄んだ青い空だった。
次にサヴィトリが視線を戻した時にはすでに、そこに女の姿はなかった。
「ちなみに、あたしはニルニラと申します。まだまだ腐ったご縁がありそうなので、よかったら覚えていてくださると嬉しいのでございます。サヴィトリ様」
どこからか女――ニルニラの声だけが響く。
最初のコメントを投稿しよう!