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(本当に迎えに来てくれるのかな……)
雲の流れる空を見上げていると、サヴィトリは急に不安に襲われた。
この九年間、ナーレとの約束は一度たりとも忘れたことはない。だが、相手もそうである確証はどこにもない。
二体の人間の氷像のことなどお構いなしに、サヴィトリが感傷に浸っていると、不意に茂みが大きく動いた。ちょうど、一番最初に深緑の装束の男が飛び出してきたあたりだ。
サヴィトリの目が見る見るうちに吊りあがる。
再び指輪にくちづけ弓を取り出すと、警告もなしに茂みにむかって氷の矢を連続で撃ちこんだ。茂みが大きく揺れ、凍りついた葉が舞う。
「ちょっ、まっ、待って待って待って! お願いだからほんとに待って! ほんとほんと! ほんとすいません! いくらと言わず財布ごと出します! 靴下と靴底の中に隠したお金も出しますからちょっと待ってお願い!!」
わけのわからないことを叫び散らしながら、一人の青年が茂みから転がり出てきた。装束の男ではないし、ニルニラでもない。
サヴィトリは無表情で、照準を茂みから青年へと移す。
「ぎゃあああっ! やめてやめて! ピンチに陥った時に華麗に助けに入って恋愛フラグ立てちゃおうなんてヨコシマなこと考えててすみません! 完全に出て行くタイミング失いました! ほんっと俺って空気読めないばかばかばかっ!」
おかしな青年は頭を振り乱し、自分の頭を拳で殴りつける。
「うるさい」
露骨にうっとうしそうな顔をしたサヴィトリは、足元にあった小石を青年に投げつけた。
小石は青年のこめかみを正確にとらえ、見事に沈黙させる。
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