第一章 災厄の子 1-1 羽ばたきの音

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(嘘だ、みんな騙されてる……今の投げつけてきたのは絶対に小石じゃなくて人の頭くらいあるとげとげ石だった……!)  何やら謎の思念が飛んできた気がする。  しかし、サヴィトリが投げたのは紛れもなく小石だ。サヴィトリが小石だと認識しているのだから、それがどんな大きさであれ「小石」でしかない。  あれだけ騒がしかったのが嘘のように、石を食らった青年は地面に倒れこんで動かない。 (当たり所が悪かった?)  ほんの少し不安になったサヴィトリは、そっと青年の方に近寄ってみる。  かるーく挨拶代わりに小石をぶつけた程度で死なれては、青年がどんな人間であったとしても後味が悪い。  歳はサヴィトリとそう変わらないように見えた。顔立ちは整っているが、どこか平凡な印象を受ける。  マントのついた軽鎧を身に着け、腰には両刃の剣とトンボ玉のついた房飾りを帯びていた。ありふれたデザインの鎧と剣だったが、素人目にも高級な素材を使っていることがわかる。  また、鎧の前当てには正方形を二つ直角に重ねた形に、三叉戟を組み合わせた紋章が描かれていた。  どこかの国の紋章だったような気がする。そういったことにうといサヴィトリにははっきりとはわからない。  とにかくこの青年は、少なくとも一般市民ではなさそうだ。 「あー、いって~。ホント相変わらずひどいなぁ、サヴィトリ」  さらさらとした栗色の髪をかきむしりながら、青年は身体を起こした。 (なんだ、生きてた)  サヴィトリは安心したような残念なような気持ちになる。  そんなサヴィトリの心中など知らず、青年はサヴィトリの顔を見て、なぜかにっこりと笑った。 「久しぶり、サヴィトリ」 「……誰?」  サヴィトリは思いっきり眉間に皺を寄せ、首をかしげる。どの記憶をたぐり寄せても、目の前の青年の顔は出てこない。
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