プロローグ

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プロローグ

 目が痛くなるほど青い空だった。  その青さをやわらげるように、ちぎったわた飴に似た薄い雲がゆっくりと流れていく。  体当たりをするように、建てつけの悪くなったドアを開けると、小さな女の子は全力で走った。とがった草や砂利が裸足に痛い。  だが、靴をはきに戻っている暇はなかった。追いかけなければならない背中はどんどん遠ざかっていく。  涙が出そうになるのを手のひらで強くこすってごまかし、女の子は黒い綿のズボンに飛びついた。何があっても離れないように、ぎゅっと手足を絡ませる。  足にかかる重さに、少年は仕方なく立ち止まった。 「君、何してるの」  穏やかな春の空と同じ髪の色をした少年は、自分の足にへばりつく女の子をにらみつけた。 「ついていく」  簡潔に答えると、女の子は短い手足にいっそう力をこめた。  歳の離れた兄のような少年は、「クベラ」という遠い北の国に行ってしまうらしい。  あれこれこういう理由だからと説明してもらったが、女の子には理解できなかった。  それよりも理由がなんであれ、少年と離れて暮らすということ自体が受け入れられない。  これからは一体誰が料理を作ったり、掃除や洗濯をしたり、自分と一緒に遊んだり出かけたりしてくれるのだろう?  少年は前髪をかきあげると、こっそりとため息をつく。 「師匠――クーお父さんに大きなお菓子の家を作ってもらう、ってことで納得したんじゃなかったっけ? それに、君がついてきたらあの甲斐性なしがひとりになるだろう。きっと、三日とたたずに干からびるよ」  諭すように言い、少年は女の子の金色の柔らかな髪を撫でた。  だが、女の子はいやいやと首を振る。 「じゃあじゃあ、クーおとうさんもいっしょ」 「絶対にお断りだ」  少年は間髪入れず彼女の申し出を却下する。
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