本当の気持ち

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本当の気持ち

女性は毎日店に来ていた。 ジャズが好きだと言い、ピアノをやっていて朝陽の演奏がとても気に入ったと花やワインの差し入れを持って来ていた、それが次第に朝陽に執着し朝陽に対する態度がファンの範疇を超えるようになった。 そしてあの夜、無断で楽屋へ入ってきた女性を裏口から出そうと、朝陽が連れて出たところで女が抱き着いた。 強く抱き着きつかれ突き放そうとしたとき、視線の先にこころが立っていた。 慌てて追いかけようとした朝陽は女性に腕を掴まれ、狭い路地で行く手を阻まれてしまった。 こころの気持ちを考えるといたたまれなかった。 ずっと逢っていなかった・・・・・無理をしないように店には来なくていいとメールを送ってから一度も逢っていない。 逢いたかった・・・・・・こころの気持ちは充分すぎるほどわかっていた。 自分の事を好きだと思っている、その期待に応えてやりたい・・・・・・自分も同じ気持ちだと言いたかった。 だが言ってしまえばこころは男同士の禁断の果実を口にすることになる、海外に住む自分にとって、それほどたいしたことではないと思っていても、こころにとってはどうなのかわからない。 その思いが自分の中でこころへの気持ちを押さえた、だからこのまま逢えない日が続けばこころの気持ちも冷めてしまうかもしれない。 そうなれば・・・・・・・自分の気持ちに蓋をしてこころの前から消えればいいと思っていた。 電話もメールもつながらない・・・・・・諦めるか?こころが誤解したまま終わりにするか? やりきれない思いだけが残った、始めて逢った時のこころ・・・・・まだ少年だと思った自分に、怒ったように学生証を見せたこころの顔が浮かぶ。 今頃はきっと裏切られたと思っているだろう・・・・・せっかく知り合ったこころに、悲しい思いをさせたままで終わりにしたくなかった。 好きだったと言おう・・・・・・こころの悲しい顔は見たくない・・・・・誤解だと分かってもらいたいと思った。 一度だけ行ったこころのマンションへ向かった。 逢えるかどうかも、逢ってくれるかもわからない・・・・・・ 昼過ぎにマンションへ着いた、部屋のチャイムを押しても応答はなく人の気配もなかった。 どうしても今日逢いたかった・・・・・学校へ行ったのなら帰ってくるまで待つつもりで来た。 電話をしてもつながらない・・・・・ドアの前に座って帰ってくるのを待った。 こころの気持ちなのかわからない・・・・・自分の事を忘れようとしているかもしれないし、もう忘れたかも知れない。 女性と抱き合っているのを見て走り出したこころ・・・・・・ いろいろな事を考えて、こころが帰るのを待った・・・・・外はすでに暗くなっていた。 店には休みをもらってきた。 何があってもこころに逢って話を聞いてもらいたい・・・・・本当の気持ちを打ち明けたい。 こころが店に来てから2日・・・・・こころがどんな気持ちで過ごしたのか考える。 ※※※※※ 寝むれない夜を過ごし、次の日は起きることも寝ることも出来ないまま一日を過ごした。 わずかばかりの水分だけを捕ってひたすら目を閉じていた。 翌日になってカーテンの隙間から朝の眩しい光が差し込んできた、何をしても気持ちは晴れなかった、仕方なく大学へ行った。 自分が何のために大学へ行っているのか、高い学費を出してもらって部屋で落ち込んでばかりはいられなかった・・・・・気持ちを無理矢理奮い立たせて大学へ向かった。 講義を受けても頭に入ってくることはなく、声が耳を通りすぎて行くだけだった・・・・・・それでも部屋にいるよりは・・・・・そう自身に言い聞かせた。 お昼は友達に誘われて学食へ行った、食欲はなかったけどスープが美味しかった。 午後からもすべての講義に出席し、心配してくれた友達とCafeで時間を過ごした。 友達は何も聞かなかった、ただ側にいてくれた。 部屋へ帰って一人になると考えることは決まっていた・・・・・部屋へはなるべく遅く帰りたかった。 深夜まで時間を潰し、重い足を引きずるようにマンションへ帰った。 5階まで階段を登った・・・・・ エレベーターにしなかったのは疲れた身体を更に疲れさせるため・・・・・・部屋に入ったらそのままベッドで眠りたかったから。 5階まで登り切ったところで部屋の前にうずくまる人がいた・・・・・・あの柔らかそうな薄いブラウンの髪・・・・・ それが誰であるかなんてすぐにわかった・・・・・・逢いたくて逢いたくてたまらなかった人。 「あさひ」 「・・・・・・」 「朝陽・・・・・」 側に座って名前を呼ぶ・・・・・ゆっくりと顔を上げて朝陽が俺を見た 「こころ、おかえり」 「いつからここにいたの?」 「おひる・・・・・・こころ・・・・・逢いたかった」 「朝陽・・・・・」 「ごめんね、でもこころが見たのは違うから」 「うん もういい 気にしてない・・・・・朝陽が来てくれたから」 「こころ、俺の事好き?」 「うん 好きだよ」 「俺も・・・・・好きになっていい?こころの事」 「いいに決まってる・・・・・・」 ドアを開けるのも忘れて抱き合った………俺も朝陽も泣いていた。 ※※※※ ドアの前でずっと座っていた、こころが帰ってくるまで何時間でも待つ・・・・・・こころの顔を見てこの前の事を話して分かってもらう。 座っている内にいつのまにか眠ってしまっていた・・・・・・ここに来てから水も飲んでいなかった。 5階に来る人は誰もいない・・・・・時間が止まったような空間の中で一人じっと待った。 時計の針は10時を指していた。 夢うつつの中・・・・・名前を呼ぶ声が聞こえた。 うずくまったまま目を開けると見慣れたスニーカーがあった……… 「こころ」 逢いたくて顔が見たくて・・・・・・話したいことがいっぱいあったのに、顔を見たら忘れていた。 立ち上がってこころを抱きしめた・・・・・・ずっとそうしたかった。 好きだと言った俺に好きだと言ってくれた、好きになっていいと言ってくれたこころ。 ドアの前で抱き合って泣いた
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