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出会い
初めて訪れた母の国・・・・・憧れとも郷愁とも違うせつなさを感じる場所だった。
一人になったせいだろうか、何もかも放り出して家を出た。
縁者も友人も知り合いも誰もない場所・・・・・それでも不安に感じることもなく機上の人となり訪れた国。
賑わう空港に降り立ち、電車に乗った。
母とよく似た顔立ちの人達、懐かしく切なく何処かで母が待っているような気がした。
母が生まれ育ち、父と出会った国・・・・・それは日本だった。
仲のいい両親と優しい兄に囲まれて、毎日が楽しく幸せだった。
そんな日は二度と来ないけど、この場所は自分を温かく迎えてくれた。
行き交う人の優しい顔が僅かな不安を消してくれた。
ホテルでチェックインを済ませ、荷物を置いてシャワーを浴びて、賑やかな夜の街へ向かった。
多くの人が行き交う街、賑やかで華やかな夜の街を歩いた・・・・人の波にもまれながら、煌めく街の光に目が釘付けになる。
夜の街を歩くのは始めてのことだった、しかも一人・・・・・・これまで自分の側にはいつも兄が居た。
プライベートも仕事も全て兄に任せたまま、言われた通りにしているだけでよかった、甘えていたと言えばそうかも知れない。
たった一人の優しい兄だった・・・・・・子供のころからずっと側にいた、それがが当然でずっと続くと信じていた。
その兄が自分を残し母と父の元へ行ってしまった・・・・・ある日突然・・・・・病を隠して支えていたと知った時はすでに遅く、別れを惜しむ間もなく亡くなってしまった。
私の名はMichel 朝陽
職業はテナーサックス奏者。
ヨーロッパで音楽をやっている人なら知らない人はいないと自負している。
だが日本ではまだ知る人は少ない・・・・・
子供の頃、ジャズは街でいちばんカッコいい音楽だった。中でもとびっきりかっこいいのはテナーサックス奏者。
有名なソニー・ロリンズとジョン・コルトレーンにあこがれて始めたテナー・サックス
練習を始めてすぐにジャズに魅了された、力強い音と軽快な音楽に夢中になった。
日本人の母とフランス人の父の間に生まれ、ピアノ奏者の父の曲を聴きながら育った・・・・・二人がなくなって兄と二人になってからは演奏旅行もコンサートのスケジュールも兄任せで過ごしてきた。
日本人の血を濃く残す兄に比べて、自分は薄い茶色の瞳とライトブラウンの髪そして身長も顔だちも日本人の血は感じられない外見だった・・・・それでも誰よりも母の国日本に憧れていた。
突然訪れてみたくなったのは、自分にとって大事なものを見つけたかったのかもしれない。
母が作っていた和食が食べたくて、ガイドブックを頼りに日本料理の店を訪れた。
お箸も行儀作法も日本語も母に教わった、だから日本料理も完璧に食べられる自信がある。
お刺身も天ぷらも茶碗蒸しも肉じゃがもお寿司も、もちろんごはんも大好きだ。
お腹がいっぱいになって若者が溢れる街を歩く・・・・・私の住む国では夜の街で遊ぶのは大人と決まっている
だが日本ではまだ子供のような若者が夜遅くまではしゃいでいるのはきっと治安がいいせいだろうと思う。
安心して夜の街を一人で歩けることが嬉しい、治安がいいという事はそういうことなのだとつくづく思う。
歩き疲れてCafeのテラスでコーヒーを飲んだ・・・・・甘いミルクたっぷりのカフェラテ。
テラスに腰かけて歩く人たちを眺める、知ってる人はいなくてもなぜか寂しさは感じなかった。
ゆっくりとした時間をテラスですごし、そろそろホテルへ帰ろうとCafeを出て歩いているとビルの間の薄暗い場所に少年が座り込んでいた。
きっと酔って座り込んでいるのだろうと通り過ぎようとしたとき、すぐ横で不穏な会話が聞こえてきた。
どうやらあの少年の事を話しているらしい、良からぬ雰囲気を感じてこのまま放っておけなくなった。
少年の側へ行って友達の振りで話しかける・・・・・・
「おい、行くぞ・・・・起きろ」
「ん・・・・・吐く・・・・」
「立って・・・・・腕こっち」
少年の腕を肩にまわすと腰に手を添えて歩きだす、身長が違いすぎて引きずるかたちになってしまった。
バス停の椅子に腰かけて、何度も声をかけるが先ほどよりも意識がなくなっていく、このままにしておけない………だからと言って自分のホテルに連れていくわけにも行かない。
かと言って彼をこのままにしてしてホテルに帰るわけにもいかなかった・・・・・
その時ガイドブックに載っていた日本独自のホテルの事を思い出す、恋人同士がしばしの時間を過ごせるホテル・・・・・ラブホテル。
そこで酔いがさめるまで過ごすのが一番いいと思った、タクシーに乗ってホテルを探してもらう。
異国の地で知らない少年とラブホテル・・・・・・こんな状況になるとは・・・・・・決して他意は無い・・・・・あくまでも親切。
治安のいい国でもこんな少年が酔って意識を無くしていては危険が目に見えている・・・・・・だから・・・・・安全の為の非常手段だった。
案内されたホテルの指示に従って空いてる部屋のキーを受け取って部屋に入った。
自分がチェックインしたホテルとはまるで違う雰囲気に一瞬息を呑む・・・・・・照明も違う。
何が一番違うかというとベッド、部屋いっぱいと言っていいほど大きなベッド・・・・・そしてその周りの雰囲気。
ベッドの上に少年を寝せてソファーで横になる、13時間のフライトとその後の街の散策、あげくに酔った少年を抱えての介抱・・・・・・疲れてしまった私はすぐに眠ってしまった。
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