2-10 時の空白、心の空虚

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2-10 時の空白、心の空虚

(……眠れない)  サヴィトリは負けを認め、無理に閉じていた目蓋を開いた。  どちらかといえば寝付きは良いほうだ。だが今夜は、毛布を頭までかぶってごろごろしても眠りに落ちることができない。単純に寝るのにはまだいくらか早い時間だというものあるが。 (明日は魔物討伐だし、ちゃんと寝ておかないと響くしなぁ)  サヴィトリは小さくため息をつき、打開策を考える。  まっ先に思い浮かんだのは、羊。あまりに古典的な方法だった。 (古式ゆかしく羊なんか数えても余計に目が冴える気がするけど、他に良い方法も思いつかないし……)  サヴィトリは目蓋を閉じ、羊を思い浮かべる。  もこもこの毛に、ぐるぐる螺旋の角。めえめえ間延びした鳴き声。 (羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹――) ***中略*** (――羊が七三一匹、羊が七三二匹、羊が七三三匹……あー、ようやく眠くなってきたかも。なんだか、身体が重く……)  不意に、サヴィトリの頭の中に疑問符が浮かぶ。  重いは重いでも、今感じているのは押しつぶされるような重さ。眠りに落ちる寸前特有の、身体から力が抜け、自分の手足自体が重く感じるのとは違う。 (重い……なんで……?)  サヴィトリは原因を探ろうと、ベッドサイドのランプに右手を伸ばす。  とりあえず明かりをつけないことには何も見えない。  手探りでランプを探していると、自分のものよりも大きな手に絡みつかれた。そのまま強い力をかけられ、ベッドに手を押さえつけられる。  ここでようやくサヴィトリは理解した。  自分は今、誰かに組み伏せられている。こいつを排除しなければ、ゆっくり眠れない。  サヴィトリは臨戦態勢に入る。  非常に不利な状態だが、これくらい切り抜けられないでどうするか。  押さえつけられた手にサヴィトリが力をこめるのとほぼ同時に、ランプに明かりが灯った。  決して強い光ではなかったが、突然のことにサヴィトリの目がくらむ。幾本もの柔らかい針を刺されたように目が痛み、サヴィトリはたまらず顔をしかめた。  夜陰に乗じて襲撃してきたのなら、相手の目は夜の闇に慣れているはず。わざわざあかりをつける必要などない。
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