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1-1 騒々しい朝
「――起きてください わたくしの 可愛い サヴィトリ様。今日は とても 大切な日で ございます」
どこからか不思議な声が聞こえる。
「サヴィトリ様が 旅立つ日。わたくしと 結ばれ めくるめく 快楽の果てへと 旅立つ日――」
明らかな違和感を覚えたサヴィトリは、ばちっと音がするほどの勢いで目蓋をこじ開けた。
容赦なく入りこんでくる光によって、視力が数秒間奪われる。
(……あの光景は、夢だったのか。そんなところにまで出てくるとは本当に嫌な女だ)
サヴィトリは強く拳を握りこんだ。まだ身体に棘がまとわりついているような気がする。
「おはようございます、サヴィトリ様」
さっき聞こえたのと同じ声がし、世界が色と形を帯びていく。
サヴィトリのごく至近距離に、非常識なほど美しい顔があった。
男と言われれば男、女と言われれば女。
どちらの性にせよ、万人が見惚れずにいられない美貌だ。
「いかがなさいましたか、サヴィトリ様?」
ぞっとするような赤い瞳をした麗人が、心配そうに眉をひそめる。
寝起きで思考回路が正常に機能していないのか、目の前の人物が自分にとってなんなのか思い出せない。しかしこの顔には嫌というほど見覚えがある。
「……とりあえず、どいてくれないか」
サヴィトリはまっすぐに見返して言った。
理由はわからないが、ベッドで眠っていたサヴィトリの上に麗人が覆いかぶさっている。
これは犯罪がおこなわれる三秒前だろう。
もしも犯人がこちらの要求に応じなかった場合、すみやかに警察を呼んで現行犯逮捕してもらわなければ。
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