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「サヴィトリ様! もしやわたくしをお探しに……!?」
頬を赤く染めたカイラシュがすり寄ってきた。
サヴィトリはそれをひらりとかわし、ジェイの方へと行く。ぱっと見て、ジェイが何をしているのかわからなかったからだ。他意はない。
「これはなんだ?」
サヴィトリはカウンターの上の大きな布袋を指でつつく。木の香りと若干の生臭さがした。
「俺のおこづかいだよ」
ジェイはにっこりと笑い、親指と人差し指で輪っかを作ってみせた。
要領を得ないサヴィトリは首をかしげる。
「さっきの狼の毛皮と肉ね」
淡々とジェイは答える。
「ヴァルナってさ、土壌が特殊なせいで通常の作物があんまり育たないんだ。だから主食は獣肉。結構高く売れるんだよ。あと、冬場はすごく寒くなるから、動物の毛皮も重宝されてる」
「料理以外のことも詳しいんだな」
サヴィトリは素直に感心した。
クベラに来て一ヵ月ほどたつが、相変わらずわからないことが多い。自分がいかに外界に触れていなかったか痛感する。
「お仕事でいろんな所に行ったからね」
ここで言うジェイのお仕事は暗殺者のほうだろう。そう思うと、ジェイのへらへら顔も物悲しく見えた。
「あ、別にざっくざっく人殺ししてたわけじゃないからね。あの組合、慈善事業の斡旋とかもしてたから」
サヴィトリの微妙な表情の変化を読み取ったのか、ジェイは注釈をつける。
「ヴァルナ村にはね、何回か香辛料の仕入れに来たことがあるんだ。厨房の調理師見習いの時にさ」
今でこそ近衛兵という役職に就いているが、ジェイは最初、王城の厨房の調理師見習いとして入った。数年で所属が変わったり、実は副業をやっていたりと無闇に忙しい。
「香辛料?」
サヴィトリは聞き返す。
ヴァルナは鉱物資源に富んでいるという話は聞いていたが、香辛料も有名だというのは知らなかった。
「ほら、さっき獣肉が主食だって言ったでしょ。でも獣の肉って臭いがきついんだ。だから、その臭いを消すために香辛料が発達したってわけ。南方でしか取れないはずの香辛料に似た物がそこら中に生えてるらしいんだよね」
ジェイは商品棚を指差した。
棚には色とりどりの粉末が入った瓶が並べられている。シナモンモドキ、ナツメグモドキ――なぜか商品名にはすべて「モドキ」がついていた。
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