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「ついでにそれも買っておいてやる」
ヴィクラムが原石の入った手提げ籠を持った。ついでと言うからにはヴィクラムも何か買うのだろうが、他に何か持っているように見えない。
「珍しくお優しいじゃないか、ヴィクラム」
ナーレンダは何か含みのある言い方をした。
「俺が言うことでもないが、そろそろその癖はやめたらどうだ。生きづらいだろう」
ナーレンダを一瞥すると、ヴィクラムは喉に手を当てた。
サヴィトリとナーレンダとの付き合いと、カイラシュ・ヴィクラム・ナーレンダの三人の付き合いの長さはそれほど変わらない。サヴィトリの物心のつく前を差し引くと、むしろ三人のほうが互いのことをよく理解している。どんな関係だったのか一度聞いてみたいところだ。
「ふん、余計なお世話」
二十代後半とは思えない悪態をつくと、ナーレンダはヴィクラムの方へと飛び移り、そのまま荷物の中に潜ってしまった。
ヴィクラムは目蓋を伏せ、呆れたように息を吐く。
「あの姿になってから、ナーレはずっと機嫌が悪いな」
ナーレンダに聞こえないよう、サヴィトリはこっそりとヴィクラムに耳打ちをした。
「わからなくもないがな。誰よりも責を感じているのだろう」
「責? なんの?」
サヴィトリの問いに、ヴィクラムは指をさすことで答えた。
ターコイズの指輪。
サヴィトリは反射的に右手で指輪を覆い隠した。元をただせば森を出た自分が悪い。ナーレンダが罪悪感を背負いこむ必要などないのに。
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