47人が本棚に入れています
本棚に追加
「前から気になっていたんだが、その指輪から出る弓は誰にでも扱えるものなのか?」
ヴィクラムがサヴィトリの左手を取った。顔に近付けてまじまじと指輪を見つめる。
「取り出せるのも扱えるのも私だけだ。羽根のように軽く、弦を引くのにも力はいらない。だから弓を習ったことのない私でも感覚だけで扱うことができる」
「なるほど。独学であそこまで戦えるのは才があるからだろうな。だが一度、誰かに弓の鍛錬をしてもらうのもいいだろう。命中精度があがれば、戦術に幅が出る」
ヴィクラムの助言を受け、サヴィトリは過去の戦い方を振り返る。氷弓での攻撃は、術の代用か足止めくらいにしか使っていなかった。最長でどこまで届くのか、最大で何本まで同時に射ることができるのか、威力はどこまであげられるのか――突きつめるべきことはたくさんある。
「いや、次期タイクーンにすべき話ではなかったな」
ヴィクラムは慌てて視線をそらし、喉のあたりをさすった。
ただでさえサヴィトリは戦闘に出たがる。力をつけることによってよりその性質が強くなっては困ると思ったのだろう。
「ううん、助かる。ついでに、弓の稽古もつけてもらえるとありがたいんだけど」
「それは構わないが、他の隊に弓の上手い奴がいる。そいつを紹介しても――」
「ヴィクラムがいい」
サヴィトリは無意識のうちにそう言っていた。
数秒たってから自分の発言に気付き、慌てて理由を探す。
「その、弓だけじゃなくて、ほら、一緒に戦ってきたから、私の癖とか傾向もわかるだろう? そういうこととかも詳しく教えてもらいたいし。あと、あとは……」
「わかった」
ヴィクラムは微笑み、サヴィトリの頭に手を乗せた。
「ありがとう、ヴィクラム」
サヴィトリはヴィクラムの目を見て、しっかりとお礼を言った。嬉しさに、自然と笑顔になってしまう。
一瞬、ヴィクラムが困ったように眉根を寄せ、サヴィトリから顔をそらした。
どうかした? とサヴィトリは尋ねようとしたが、なぜか押さえつけるような強さで頭を撫でられ、それどころではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!