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「サヴィトリ様がわたくしのことを徹頭徹尾無視する……」
サヴィトリが先に店から出ていると、入口近くでしゃがみ込んでいたカイラシュにぶつかった。あれきり姿が見えないと思っていたが、店外にいたとは気が付かなかった。
「カイ、こんな所で何をしているんだ」
サヴィトリは頭を抱えながら、カイラシュに声をかけた。これみよがしに落ちこまれていると放っておけない。つけあがるのは目に見えているが。
「サヴィトリ様!」
カイラシュはぱっと表情を明るくし、飼い犬以上の人懐っこさでサヴィトリに抱きつく。
その光景を見て、「美形ご一行様」見たさに集まっていた人々が黄色い悲鳴をあげた。彼女らには一体どういう状況に見えるのだろう。
「カイ、とりあえず人前で抱きつくのはやめないか」
「では人前でなければよろしいのですね」
カイラシュはわざわざサヴィトリの耳元に唇を寄せた。頭のいかれた変態野郎だとわかっていても、カイラシュに囁かれると身体がびくりとしてしまう。
「私をからかうのはやめないか」
あまりにも人目が多いため、サヴィトリはカイラシュの身体を押し離すだけにとどめた。
「からかうなど畏れ多い。ただただお慕い申しあげているだけです」
カイラシュは芝居じみた所作で口元を押さえ、色っぽく目を細めた。男性に対して不適当な表現かもしれないが、カイラシュの表情には独特の妖しさがある。
「補佐官の行為としては度を越えていると思うが」
「おや、お気に召しませんか。ならばひざまずいて頭を垂れてみせましょうか」
挑発的な物言いに、サヴィトリは眉間に皺を寄せずにいられない。
サヴィトリは不機嫌さをため息と一緒に吐き出し、カイラシュをよけて足早に歩いた。
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