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2-8 異世界FT通信 創刊号はなんと100円!
「あのう、皆様に折り入ってお願いがあるのですが……」
ヴァルナ村の村長が申し訳なさそうに切り出した途端、時が凍りついたかのようにその場がしんと静まり返る。
香辛料をふんだんに使った、少々クセはあるが後引く美味しさの料理に、感嘆のため息を漏らしたり感想を言い合ったりとにぎやかな食卓だった。
異変を敏感に察知した村長は、その元凶に媚びるような視線をむける――フォークを咥えたまま動きを止めたサヴィトリに。
「断る」
サヴィトリは短くきっぱり簡潔に言うと、鹿肉のミートパイにフォークを突き立てた。
「ちょっとあんたさん、いきなりなんなのでございますか? お行儀が悪いのでございます!」
険悪な雰囲気のサヴィトリに怯むことなく、ニルニラが文句をつける。
「そこの下品なピンクの日傘女! サヴィトリ様にたてついてお仕置きされていいのはこのわたくしだけです! それ以前に、室内で食事中にもかかわらず傘を差している貴様に行儀を口にする権利などありません!」
「こ、これは大人の事情で仕方ないのでございます!」
「まぁまぁ二人とも、食事中に喧嘩しないで。カイラシュさん、一応ニルニラは女の子なんだから、俺達に対するのと同程度の圧力をかけたら可哀想ですよ」
いがみ合うカイラシュとニルニラとの間にジェイが割って入った。
「薄っぺらいフェミニズムなんぞを押しつけないでいただけますか。サヴィトリ様以外がどうなろうと、わたくしの知ったことではありませんね」
「ふん、よく躾の行き届いたカマ犬なのでございます」
「……わたくし、サヴィトリ様への愛と隷属という名の首輪は付いていても、鎖にはつながっていないんですよ。ふとしたはずみで喉笛を噛みちぎってしまったらすみませんねえ」
「主が野蛮なら、従者も野蛮でございますこと」
ジェイが覚悟をして間に入ったにもかかわらず、結局つかみ合いの乱闘が始まってしまう。
ジェイはため息を一つこぼし、自分の席へと戻った。
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