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「……そろそろ続けていいかな?」
ミートパイにフォークを突き立てたままのサヴィトリは誰にともなく言った。
「ああ、なんかさえぎっちゃってごめんね。主犯は忙しそうだから、俺が代わりに謝っとく」
答えたのはジェイだった。
ナーレンダとヴィクラムはフードファイターさながらに肉料理とむき合っている。食べることにのみ意識を集中し、ほとんどまわりの音が耳に入っていないようだ。
「えーっと、それで、私はなんの話をしていたのだっけ?」
サヴィトリはミートパイをかじりながら村長に尋ねる。
少し塩気が強いが、添えてあるサワークリームと一緒に食べると味がまろやかになって美味しい。
村長と何かを話していたということは覚えているが、その内容がすっかり飛んでしまった。やはり自分には健忘症のきらいがあるに違いない。
「そのですね、私が皆様に深く心を込めたお願いをする前に、サヴィトリさんがいきなり『断る』と仰ってですね――」
「ああ、思い出した。断る」
サヴィトリは笑顔で拒否を突きつけた。
「私はまだ何も――」
「断るったら断る。どうせ単調でつまらない上に、散々無駄なまわり道をさせられ、その挙句、子供の駄賃程度しか報酬をくれないおつかいイベントをやらせるつもりだろう」
サヴィトリは村長の言葉をさえぎり、ミートパイが刺さったままのフォークを振りかざす。
「村長というのはそういう面倒事をよそ者に押し付ける存在だと『異世界FT通信vol.22~過疎町村の歩き方~』に書いてあった」
「また君はそういう得体の知れない本に感化されて……。クリシュナがいかがわしい本屋から定期購読してるやつだろう。あれほどあいつの本棚の本は読むなって言ったのに」
これみよがしに大きなため息をついたのはナーレンダだ。心ゆくまで料理を堪能したのか、腹部が風船のように丸く膨れている。
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