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「はぁ、この方だけ、ですか。厚かましいと重々承知ではありますが、できればもうお一方ほどご協力いただければと。相手は棘の魔女の魔物ですし……」
「俺、そんなに弱そうに見えるんだ……いや、実際この中だと最弱だしビジュアルも見劣りするよね、ははっ……はは……」
「ジェイ邪魔。棘の魔女の魔物って言いましたよね、今?」
いじけているジェイを蹴散らし、サヴィトリは村長に詰め寄る。
棘の魔女が関わっているのなら、おそらく避けようとしても避けられない。
「はい。数日前に、棘の魔女の腹心を名乗る魔物が採掘坑に現れ、村の貴重な財源である鉱石を食べてしまっているんです」
「自ら腹心を名乗っているくせに、やっていることは間抜けだな。というか、聞かれもしないのに素性をばらす時点でアホというか」
「たとえ間抜けであろうと、村にとっては致命的な損害です。ヴァルナ砦に救援要請をしようと思っていた矢先、音に聞く猛将、羅刹のヴィクラム様がこの村に訪れたと聞き、興奮のあまり皆であのように騒いでしまったというわけです」
「へー」
サヴィトリはやる気のない相槌を打ち、ヴィクラムの方を見る。
ヴィクラムは特に表情を動かすこともなく、酒を飲み続けていた。
(ヴィクラムって結構有名なんだな。砦の時もそうだったし)
サヴィトリの視線に気付くと、ヴィクラムはグラスを置いて目蓋を伏せた。
「魔物討伐なら俺が行こう。羅刹としての本分だ」
ヴィクラムはあっさりと引き受ける。
村長が諸手を上げて喜んでいるのが視界の端に見えた。
「ヴィクラム、私もそれについて行ってもいいだろうか? 間抜けな魔物にちょっと興味が――」
「ダメです」
サヴィトリの申し出を厳しく却下したのはカイラシュだった。
「わざわざサヴィトリ様が出向く必要などありません。酒びたりの脳筋と地味な偽善者にやらせておけばいいのです。それに、サヴィトリ様はここに来た目的をお忘れですか?」
カイラシュに言われ、サヴィトリは自分の左手に視線を落とす。
自分にかけられた呪いを解くことが最優先事項だ。魔物はヴィクラム達に任せて、解呪の泉を探したほうが効率がいい。
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