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2-9 小雨の憂鬱
なんとはなしに窓の外に目をやると、雨が降り始めていた。雨足は弱いのですぐにやむだろう。
窓越しに聞こえる雨音が、わけもなくサヴィトリの気分を少し沈ませる。
「なんか胡散くさいよねえ、あの村長」
丸テーブルの真ん中であぐらをかいたナーレンダが、不満たっぷりに言った。
夕食後、ナーレンダの提案でニルニラ以外の全員が一室――全員の部屋から等距離にあるという理由でヴィクラムの部屋が選ばれた――に集まることになった。明日の魔物討伐の件などについて話し合うのだという。
サヴィトリにはその必要性が感じられなかったが、断るとあとが面倒なので素直に従った。
「そんなことは少なからず全員が感じています。わざわざくだらない共通認識を確認するためだけにわたくし達を集めたのですか、イェル術士長殿?」
カイラシュはわざとトゲのある言葉を選ぶ。
自分が気絶している間に魔物討伐の話がまとまってしまったため、不機嫌なようだった。
「しょうがないだろう……不安なんだから」
力のない声で言い、ナーレンダは自分の両手を見つめた。
「もし万が一、何かあったとしても、今の僕じゃ何もできない。サヴィトリを守ってやれない。だから、これ以上何事も起きてほしくないんだよ」
ナーレンダが弱音を吐くのを、サヴィトリは初めて見た。
傲岸不遜で気位が高いのがナーレンダの常だ。昔も、十年近くたった今も、それは変わらない。
サヴィトリが思っている以上に、カエルの姿というのはつらいものなのかもしれない。
サヴィトリの胸と左手がじくじくと痛む。
自分の行動の責任は自分で背負えばいいと思い、育ったハリの森を飛び出した。
だが実際には何ひとつとして自分で背負えていない。それどころか、たくさんの人に迷惑をかけてしまっている。
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