2-9 小雨の憂鬱

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「まぁ、イェル術士長殿の不安はわからないでもないですが、人前で自分の弱さを吐露するなんていい大人が恥ずかしい。それより何より、どさくさにまぎれて告白めいたことを仰りやがらないでくださいますか、このうじうじガエルが」  カイラシュが指でナーレンダを弾く。  カエルの身体はたやすく転がり、危うくテーブルから落ちるところだった。 「サヴィトリ様をお守りするのはこのわたくし、カイラシュ・アースラだけに与えられた天からの特権。カエルと脳筋と雑用は穢れた魔物と戯れていればよいのです! さ、サヴィトリ様、場所を変えてわたくしとお戯れしましょう!」  カイラシュは大げさな身振り手振りを交えて宣言する。  サヴィトリは黙殺しようと思ったが、すりすりと頬ずりをされたので、やむなくカイラシュの顎にアッパーをねじり込んだ。 「ジェイ、やっぱりこれ庭に埋めてきて」 「呪われそうだから嫌だよ……」 「その時は解呪の泉の実験台にもなれて一石二鳥じゃないか」 「合理的すぎて涙が出るよ……」 「サヴィトリ、いくつか聞きたいことがある。いいか?」  ヴィクラムがおもむろに手を挙げた。  カイラシュがちゃんと気絶しているのを確認してから、サヴィトリはどうぞとうながす。  部屋に入った途端、どこからか調達した酒を呷っていたので、会話に参加する気がないのだとサヴィトリは思っていた。 「お前は、ここの村長と面識はあるか?」 「いや、少なくとも私のほうに覚えはない。第一、クベラに来たのだってこの前が初めてだし」  ヴィクラムの意図が読めないまま、サヴィトリは質問に答える。 「では、村長に注視されるような心当たりは?」 「注視? 私はずっと見られていたということ?」 「俺のことを持ちあげていたわりに、お前の方に視線が行く回数が多かった。特に、村の入口で出迎えた時はお前しか見ていない」  サヴィトリはヴィクラムの観察眼に感心する。  村長の様子に多少の違和感を覚えたが、そこまで見られていたとは知らなかった。  参考までに、気付いてた? とジェイとナーレンダに尋ねると、二人とも首を横に振った。 「でも、なんでだろう。私の素性は知らないはずだし……」
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