2-10 時の空白、心の空虚

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(何がしたいんだこいつは?)  その疑問に答えるように、ふわりとサヴィトリの鼻先を香りがかすめた。  サヴィトリは思わず顔を引きつらせる。  柑橘系ベースの、爽やかで微かな甘さを孕んだこの香りには、嫌というほど心当たりがあった。 「夜這いに参りました、サヴィトリ様」  真夜中の襲撃者は吐息たっぷりに囁き、長い指でサヴィトリの頬を撫でおろした。  サヴィトリの中で、極めて重要な何かがぷちっと切れる。 「……このド阿呆がああああああっ!!!!」  サヴィトリは全力で相手の顔面を殴り抜いた。  相手が怯み、右手の拘束が緩む。  サヴィトリはすかさず絡められた手を振り払い、ラッシュをかける。 「ちょ、あの、サヴィトリ様、わたくしですって……」 「お前だとわかっているから殺す気で殴っているんだ、カイラシュ!」  サヴィトリはとどめとばかりに、組んだ両手をハンマーのようにカイラシュの脳天に振りおろす。いっそ気持ちいいくらいにきまり、カイラシュは床に倒れたきり動かなくなった。  サヴィトリは肩で息をし、額にふき出した汗をぬぐう。  とりあえずカイラシュはこのまま放っておいても問題ないだろう。下手に近付いて足をすくわれてもことだ。 「はぁはぁ……夜も激しいんですね、サヴィトリ様」  しばらくして、カイラシュがゆらりと起きあがった。  外傷はまったくない。いつものことながら凄まじい回復力だ。いや、そもそもダメージを与えられていないのかもしれない。 「前歯をへし折るつもりで殴ったんだけどな」 「容赦ありませんね」 「正当防衛だ」 「いいえ過剰防衛です」 「死んでいないのだから問題はないだろう。それより、カイは何をしに来たんだ?」 「あぁん、サヴィトリ様。ですからぁ、『夜這いに参りました』って言ったじゃありませんか」  もじもじと恥ずかしそうに答える姿に腹が立ち、サヴィトリはカイラシュの鳩尾にすりつけるような蹴りを入れた。 「警察に突き出されたいのか?」 「サヴィトリ様になら喜んで手錠をかけられたいです。縄でぐるぐる巻きにしてくださってもいいですよ」 「……そろそろちゃんと答えないと、一生カイのことを無視する」
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