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(何がしたいんだこいつは?)
その疑問に答えるように、ふわりとサヴィトリの鼻先を香りがかすめた。
サヴィトリは思わず顔を引きつらせる。
柑橘系ベースの、爽やかで微かな甘さを孕んだこの香りには、嫌というほど心当たりがあった。
「夜這いに参りました、サヴィトリ様」
真夜中の襲撃者は吐息たっぷりに囁き、長い指でサヴィトリの頬を撫でおろした。
サヴィトリの中で、極めて重要な何かがぷちっと切れる。
「……このド阿呆がああああああっ!!!!」
サヴィトリは全力で相手の顔面を殴り抜いた。
相手が怯み、右手の拘束が緩む。
サヴィトリはすかさず絡められた手を振り払い、ラッシュをかける。
「ちょ、あの、サヴィトリ様、わたくしですって……」
「お前だとわかっているから殺す気で殴っているんだ、カイラシュ!」
サヴィトリはとどめとばかりに、組んだ両手をハンマーのようにカイラシュの脳天に振りおろす。いっそ気持ちいいくらいにきまり、カイラシュは床に倒れたきり動かなくなった。
サヴィトリは肩で息をし、額にふき出した汗をぬぐう。
とりあえずカイラシュはこのまま放っておいても問題ないだろう。下手に近付いて足をすくわれてもことだ。
「はぁはぁ……夜も激しいんですね、サヴィトリ様」
しばらくして、カイラシュがゆらりと起きあがった。
外傷はまったくない。いつものことながら凄まじい回復力だ。いや、そもそもダメージを与えられていないのかもしれない。
「前歯をへし折るつもりで殴ったんだけどな」
「容赦ありませんね」
「正当防衛だ」
「いいえ過剰防衛です」
「死んでいないのだから問題はないだろう。それより、カイは何をしに来たんだ?」
「あぁん、サヴィトリ様。ですからぁ、『夜這いに参りました』って言ったじゃありませんか」
もじもじと恥ずかしそうに答える姿に腹が立ち、サヴィトリはカイラシュの鳩尾にすりつけるような蹴りを入れた。
「警察に突き出されたいのか?」
「サヴィトリ様になら喜んで手錠をかけられたいです。縄でぐるぐる巻きにしてくださってもいいですよ」
「……そろそろちゃんと答えないと、一生カイのことを無視する」
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