魔獣のリンデン上陸とアルストロメリアの企み

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魔獣のリンデン上陸とアルストロメリアの企み

 甲板の魔術師が通信具をオンにしたらしく、外の音声が聞こえてきた。  ――……様、お久しぶりです。魔塔主様はどこですか?  ――アルストロメリア様、兵士は惑わせても我々に幻術は通用しません。投降してください。  ――その言葉、そのままお返しします。この船には皇帝陛下と皇女殿下も乗っているのですよね。沈没させたくないのなら二人をここに連れてきてください。魔塔主様も一緒なのでしょう?  ――あなたとシドがしたことで大変なことになっているのです、アルストロメリア様。わかっているのですか?  ――あなたでは話になりません。わたしが闇属性魔術を使えることはご存知ですよね?  キツネ魔獣の背から降りたアルストロメリアは白いローブを着ていた。彼女の周りでバチバチッと赤みを帯びた火花が散り、その直後テーブルの上のマナ石は真っ黒になる。通信具の音声も途切れ、ノードはすぐさま詠唱して船室に結界を張った。 「部屋には対闇属性結界を張りましたが、船内まで闇属性魔力が侵入したようです」 「氷壁再凍結魔術がこんなふうに使われるとはな」  ジゼルはチッと舌打ちしてあたしのパーカーに潜り込んできた。 「ウィロー、甲板にゲートを開きますからアルストロメリアの相手をお願いします。わたしは陛下とナリッサ様を連れてリンデン城に向かいます」 「待って、ノード。ウィローさんは大丈夫なんですか?」  あたしはゲートを開こうとしたノードの腕を掴んで止めた。「大丈夫ですよ」と穏やかな顔で答えたのはウィロー本人だ。 「聖女様、わたしは対闇属性魔術を習得しております。彼らがいつ船を襲って来るかわかりませんでしたから」 「サラさん、任せられるのはウィローしかいないのです。他の者には闇属性関連の公式は一切教えていません」  ノードがゲートを開くと、ウィローはペコリと頭を下げて入っていった。上の方でドンッと音がし魔術がぶつかった気配がある。 「急ぎましょう。われわれがゲートで城に移動すれば、おそらくアルストロメリアはこの船から離れる。その方が船に残る者の危険も減ります。陛下、これを」  と、ノードはローブを脱いでカインの肩に掛けた。何事かと魔塔主を見返す皇帝に「これでゲート酔いしません」と答え、再びゲートを開く。あたしの指定席はカインに取られてしまった。 「前もってリンデン城に用意していたゲート移動用の部屋に繋ぎました。ジゼル殿、先に様子を見て来てもらえますか?」  「わかった。闇属性の戦闘に巻き込まれるよりマシだからな」  パーカーから出ていこうとする白猫をガシッとホールドし、あたしは「行ってきます」と青と黒の光の渦に飛び込んだ。 「ちょっ、サラさ――」  ノードの声が途切れ光の渦を抜ける。すると、薄暗い部屋に出た。天井に向かって傾斜六十度くらいの急な階段が掛かり、上がりきったところの天井板が持ち上がって「あっ」とゼンとコトラが顔を出す。 「サラちゃん! ジゼル! 良かった。船の様子を見に行こうか迷ってたんだ。魔獣がそっちに向かっただろう?」 「ああ、でかいキツネ魔獣が来たが、厄介なのはそいつを使役してるアルストロメリアだ。それより、ゼン。この大量の魔獣の気配は何なんだ?」  さっきまでは船室の結界の中にいたから感知できなかったけど、ゲートを出た瞬間から魔獣暴走のような気配を感じる。 「バンラードの巨大船だよ! 今朝から沖の方をノロノロ動いてたんだけど、さっき急にこっちに近づいてきて接岸したんだ。魔術で水流を操ってるのか西部騎士団船は下流に追いやられた」 「沈められなかっただけでもありがたいと思うべきだな。グブリアの船にも魔術師が乗っているのだろうが、レベルは向こうが上、実践経験は雲泥の差」 「百聞は一見にしかずだ」  ゼンの隣でこっちを見下ろしていたコトラがクイッと顎をしゃくり、天井の穴から姿を消した。あたしはジゼルを抱いたまま飛び上がって穴を抜ける。  下階と同じ造りの殺風景で狭い部屋にはベッドとゼンのものと思われる荷物があった。コトラはチビコトラの姿になって急階段を駆け上っている。あたしがそれを追っていると、ジゼルはパーカーから出て階段下のゼンに声をかけた。 「ゼン、ゲートの向こうから魔塔主たちを呼んできてくれ。魔獣の気配はそう近くないし、皇帝もナリッサもこっちに連れてきたほうが良さそうだ」 「了解」  ゼンは床の穴に姿を消し、あたしたちは天井の穴に飛び込んだ。ビュウと強風が吹き付けるそのフロアは展望台みたい。四方を囲う腰までのレンガ壁、屋根を支える四本の柱、それ以外は望遠鏡がひとつ転がっているだけだ。  ニラライ河を臨んで下流側――西側アルヘンソ領――は視界が開け、頑丈そうな建物が建ち並んでいた。地図に斜線が引かれていた区域、つまりリンデン城塞だろう。それより西側には区画分けされただだっ広い畑があり、兵士たちの姿が見える。城塞内部にもところどころに広場のような空間があるけど、そのほとんどはテントや軍用物資で埋め尽くされていた。地面が見えているのは迷路みたいなジグザグの道。馬車は無理そうだけど騎馬なら余裕で通れる広さがある。  河岸に目をやると、巨大船はリンデン港の埠頭よりも下流にある小さな河原に乗り上げたようだった。そこから続く魔獣の行列はここリンデン城を目指して進んでいるように見える。グブリア軍の小隊がそれを阻み、ところどころで爆煙があがっていた。対応しているのはおそらくアルヘンソ兵団と魔塔魔術師だろう。 「ここもじきに騒がしくなりそうだ」  コトラは元のサイズに戻り、囲いに足をかけて戦闘で巻き上がった砂埃を見ている。ジゼルがコトラの頭に飛び乗り、身を乗り出してぐるりと周囲を見渡した。 「帝国軍は入港を阻まれているようだな」 「あっちの船は押し流されてリンデン港に戻れないでいるし、そっちの船はあの通りだ。水を操るのが得意な魔術師があの巨大船にいるのだろう。あの大きな船をほんの数分で接岸させたのだからな」  魔獣運搬船に比べると西部騎士団船は小舟にしか見えなかった。下流の船はコトラの言う通り水流で航行を阻まれ遡上できず、上流の騎士団船は噴水のような何本もの水柱でリンデン港に近づけずにいる。魔術の発動場所は魔獣運搬船のようだけど、不思議なことに騎士団船が被害を被るような直接攻撃は仕掛けていない。 「ここだと中部騎士団船の様子がわからないな。コトラ、バルヒェット側はここからは見えないのか」 「残念ながら見えない。バルヒェット側から見えないよう、意図的に密林を刈らずにいるらしい」  その言葉通り城塞右手――東側バルヒェット領――は視界が悪かった。生い茂る木々の中を真っ赤な鳥が羽音を立てて飛んでいく。 「アルヘンソとバルヒェットの領境は下に見えている城壁よりも一キロほど東側、ニラライ河支流が境界線らしい。密林は商用門の手前あたりまであるが、ハンターの狩り場として有名だそうだ。今は狩りができるような状況ではないし、潜んでるのはバンラードの魔術師だ。ジゼルも感知できるだろう?」 「バンラードの魔術師は魔力を隠さないからな。上級魔術師の魔力に魔獣が逃げてるようだぞ。それより、密林だけではなくあの魔獣の群れの中にも魔術師がいるようだ」 「五、六人か」 「ぼくが感知したのもそれくらいだ。魔獣は大小合わせてざっと二百匹くらいか。魔塔の魔獣暴走に比べれば規模が格段に小さいが、ルケーツク鉱山で飼育されただけあってほとんどが六本テール以上だ」 「ひとつ気になっていることがある」  コトラが頭上のジゼルに話しかけようと上を見上げ、白猫は「おっと」と白虎の後頭部にしがみついた。 「気になることって?」  あたしがジゼルの代わりに聞くと、途端にコトラは敬語になった。 「先ほどゼンと一緒に商用門まで様子を見に行ったのですが、バルヒェット側の兵士も魔術師も混乱しているようでした。あの魔獣運搬船の接岸は予定になかったのではないかと思います。昨夜遅くから魔術師団が国境方面に移動する気配があり、バンラード軍撤退という噂を聞きました。今残っている魔術師は半数にも満たないと思います」 「バンラード大公が即時撤退命令を出したからな」  ジゼルの言葉に「えっ」とコトラが目を見開いた。 「その通り。魔獣を上陸させたのは十中八九シドの独断だ」  背後の穴からヒョイと身軽なジャンプで現れたのはカインだった。その動きはさすがオーラ所持者。コトラは姿勢を正し恭しく頭を垂れた。 「グブリア皇帝陛下、初めてお目にかかります。地図にない島の召喚獣コトラと申します。主はリンドバーグ侯爵家のアン・リンドバーグ。彼女の婚約者であるゼンの同行者として――」 「そなたとゼンのことは聞き及んでいる。かしこまらずとも良い。島の召喚獣はずいぶんと礼儀正しいのだな」 「おい、皇帝。それはぼくへの当てつけか?」 「聖獣殿は親しみやすくてよいぞ」 「そうだろう!」 「ジゼル殿、軽口はそれくらいに」  床穴からはナリッサやマリアンナが続々と上がってきて、最後に現れたノードがクイッとジゼルに手招きした。ジゼルはそっぽを向いてカインの肩に飛び乗る。  カインは壁際まで行くと自分の左隣に魔力ゼロ男を呼び、右隣にはナリッサを迎えた。その後ろにマリアンナ。ノードは囲いから身を乗り出して城内外の様子をうかがう。 「ゼン、あの巨大な代物がバンラードの船か?」 「はい。魔術で強引に河原に乗り上げたようなので、船は使い捨てにするつもりなのだと思います」 「この場にいたそなたから状況を説明してくれ」 「承知しました」  ゼンはチラと皇帝の横顔をうかがい、城下に視線を戻すと珍しく深刻なトーンで話し始めた。道化師口調は封印したようだ。 「皇太子殿下は少し前にリンデン城を出ました。獣人兵士三十名と魔術師五名を率いて商用門に向かっています」  建物の間を縫うように進む騎馬隊が見えた。カインがその姿を捉えたのを確認し、ゼンは話を続ける。 「今朝の時点では、帝国軍は商用門と埠頭、リンデン城の三部隊に分かれていました。が、巨大船を警戒してリンデン港に増員、巨大船接岸後は埠頭と商用門にいた部隊が魔獣の対応に向かいました。そのため商用門が手薄に」  あそこです、とゼンが城塞内の空白地帯を指差す。 「丘の下の空き地になっているところが西門扉と東門扉に挟まれた検問待機所。西門扉は扉と言っても応急処置で設置された鉄柵です。その柵にも東門扉にも結界付与がしてありますが、シドとアルストロメリアは闇属性魔力を使うので意味はないと思ったほうがいいです。商用門の結界が壊されときのため魔術師は商用門付近に残し、魔獣対応には獣人兵士を向かわせるとおっしゃっていました。それでも各隊に一人ずつは魔術師を同行させたようです」 「先ほど船内で魔塔主は対闇属性の結界を張ったと言っていたが、それを商用門にもできないのか?」  カインの問いに答えたのはノード。 「できるかできないかで言えばできます。ですが、物に付与した魔術公式は簡単に解読されてしまうので、バンラードの魔術師に闇属性魔術の公式を知られる恐れがあります。そのため敢えて対闇属性結界を付与せず、闇属性の使える魔術師三名を商用門に待機させています」  たぶん、イーサが派遣したと言っていた闇の森の住人のことだ。 「なるほどな」とカインは悩ましげに吐息を漏らした。彼も闇属性魔術≠死霊術ということは頭では理解しているはず。けれどすぐ納得できるものでもないのだろう。 「ところでゼン」  カインは地上の土埃を指して話題を変えた。 「魔獣対応に向かったのは埠頭と商用門の兵士半数ずつくらいか」 「わたしは軍の人間ではないので詳細は聞き及んでいませんが、ここから見ている限りそれくらいだと思います。手薄になった商用門の戦力を補うため皇太子殿下自ら商用門に向かわれました。城にいては戦況把握に時間がかかるとおっしゃって」 「緑陰も一緒か」 「緑陰はもともと商用門に配置されていました」 「そうか。わしとは入れ違いになったようだが皇太子の判断は悪くない。見ろ。どうやら魔獣が向かっているのは城ではなく商用門だ」  河原から続く砂埃が西門扉の方へと曲がりつつあった。迎え撃つ帝国軍もそれに合わせて方向転換し始める。 「幸いなのは一般人に被害が及ばないことだな。シドの狙いが大量虐殺ならもっと下流域の港町に接岸していただろう」 「シドは魔塔主のストーカーだからな」とジゼル。 「聖獣殿、ストーカーとはなんだ?」 「纏わりついて愛情と憎しみを押し付けてくるやつのことだ」  雑な説明に「愛情ですか」とノードが苦笑している。  魔獣たちは畑を突っ切って商用門に向かっていた。畑に何も作物がないのは収穫後というわけではなく、バルヒェット事変以降の戦闘で作付けできなかったか、植えられていても収穫前に処分されたのだろう。敵に兵糧を与えるわけにはいかないはずだから。 「ゼン、あの船には黒龍が乗っていると魔塔主に聞いたが、そなたは黒龍の姿を見たか?」 「いえ、まだ」とゼンは首を振る。 「ですが、その黒龍が聖女様の未来視に出てきた災厄の黒龍ならあの甲板を突き破って出てくるのではないかと思います。それくらいの巨体です」  全員がその光景を想像したのだろう。刹那沈黙が落ちる。 「魔塔主、黒龍が船の中にいるうちに商用門へ向かうぞ」  皇帝の言葉を予想していたのか、ノードは「承知しました」と答えてすぐさまゲートを開いた。 「ナリッサ様は城に残ってください。ゼン、城内の安全な場所にナリッサ様を――」 「イヤよ」  カインが厳しい顔でナリッサを見たけど、彼女が怯むことはなかった。 「こんな時に安全な場所に隠れてどうするんですか。銀色のオーラと魔術師だけでなく金色のオーラも帝国にあることをバンラードに知らしめる良い機会だと思いませんか? 陛下、わたしを利用するなら今です。一緒に連れて行ってくださいますよね?」  ナリッサの勢いにカインは折れたようだ。 「仕方ない。聖獣殿、ナリッサを守ってやってくれるか?」 「だそうだぞ、主」  ジゼルが許可を求めるようにあたしを振り返ったとき、ドンッと鈍い音がした。視界の右、密林の上に見えた水柱はバルヒェット領域の二ラライ河から上がったものだ。間をおかず二度、立て続けに水柱があがる。 「魔塔主、中部騎士団船が攻撃されてるのか?」 「いえ、あれはおそらくウィローの魔術です。アルストロメリアを足止めしているのだと思いますから急ぎましょう」 「陛下、失礼します」  ナリッサは強引にカインと腕を組んだ。置き去りにされないようにだろうけど、以前より父娘らしいやりとりを見せられると複雑な気分だ。オーラ治癒でスキンシップに慣れたせいかもしれない。ユーリックとガルシア公爵はこの光景を見たら嫉妬しそうだけど、カインは満更でもなさそうだった。 「ノード、あたしは様子が見たいから飛んでくね。ジゼルはナリッサをお願い」 「寄り道するなよ」とジゼル。  ノードはひとつうなずいてゲートを開いた。その出口にあたる青と黒の光の渦が丘の下にも見えている。 「サラさん、また後で」  ナリッサはカインを引っ張ってゲートの中に消え、マリアンナがすぐその後に続いた。一方、ゼンはコトラに風翼をつけてヨイショとその背に跨る。 「魔塔主様、おれは城壁伝いに行きます。皇族と一緒にゲートで現れたらおかしいですから」 「そうですか? 白虎を操る魔術師が陛下のそばに控えているのも面白いと思いますよ」 「そういうわけにいかないです。おれは帝国民じゃなくて島の人間なので」 「ああ、そういえばそうでしたね。では、わたしは先に行ってます」  ノードがゲートに入り、商用門に彼の魔力を感知する。ローブをカインに貸したままだから魔塔主の魔力はダダ漏れ状態だ。 「シドの居場所はわからないのに、魔塔主の居場所はバレバレだね」  あたしが言うと、展望台から飛び降りようとしていたコトラが足を止めた。 「シドはあの船にいるのでは?」  「船にいるのかなあ? あの船がシドの命令で騎士団船を攻撃してるにしては生ぬるい気がする。シドなら騎士団船の結界は壊せるだろうし、壊さなくても船をひっくり返すのは簡単だと思うんだよね。水を操るのが上手い魔術師がいるなら余計に。第一魔術師団の師団長と副師団長はシドを信用してないみたいだったし、あの船の魔術師もシドに従っていいのか迷ってるのかも」  なるほど、とゼンが唸った。 「それで、騎士団船は妨害するけど決定的な打撃は与えないようにしてるってことか。サラちゃんはシドがどこにいると思うの?」 「あくまであたしの憶測だけど、もしシドが船を降りてたらいそうなのはあそこだよね」  魔獣の群れを指差すと、ゼンとコトラが顔を見合わせた。 「コトラ、おれらもなるべく目立たないように移動しよう」  ゼンはコトラの背中から降り、懐からスクロールを取り出す。意図を察したコトラはチビサイズになって背中に飛び乗り、ゼンが「また後で」とスクロールを破ってどこかに姿を消した。  一人残されたあたしはちょっと迷い、商用門ではなく二ラライ河上空に一秒未満で到達。中部騎士団船がものすごい速さでリンデン港へ向かっているのが確認できたけど、マストが折れ、小火があったのか船首付近が黒く煤けていた。  キツネ魔獣の姿はどこにも見当たらない。魔力感知に集中すると、それらしい気配が密林内にあるようだった。アルストロメリアは魔力抑制具を使っているらしく感知できないけど、きっとキツネ魔獣と一緒だ。  アルストロメリアが何を企んで密林に入ったのかはすぐわかった。リンデン城から死角になっていた城塞東側で、密林から続々と魔獣が駆け出して商用門に向かっているのが見えたからだ。  その魔獣の数は今のところそう多くなく、数十匹から多くても百匹程度。おそらく大部分が野生の魔獣で、とりわけ魔力の強い魔獣は三匹。その魔獣三匹はそれぞれ上級魔術師の気配がそばにあり、一緒に移動しているからマナ石を埋め込まれた魔術師団の魔獣だろう。魔術師団三人とアルストロメリアで密林の魔獣を使役したに違いない。  なぜ部外者のアルストロメリアの指示を聞き入れたのかは不明だけど、魔術師は魔獣を使役して商用門へ向かっていた。城壁と密林と幅十メートルほどのニラライ河支流に囲まれた区域には兵士と軍馬と投石器が見える。川には橋が架かり、対岸にはバルヒェット軍の本陣らしいテントが並んでいた。  魔獣の群れはバルヒェット兵士のそばまで迫っていたが、なぜ対岸に避難せずにいるのかと思ったら、  ――パン、パン、パン、パンッ……  発砲音がした。バルヒェット兵が魔獣に向けて威嚇射撃をしたようだった。魔獣たちは怯むことなく突き進んでいく。
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