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「とりあえず風呂入ろうか、澄ちゃん」
「…お、ふろ?」
「おじさん一緒に入りたいなと思ってるんだけどいかがっすか、澄お嬢様」
樋浦さんと一緒にお風呂…?
にやりと歪んだ樋浦の口端が少し湿っていた。
正常に動かない脳みそが思い浮かべた光景に一瞬絶句して、急激に覚醒した。こんな貧相な体を人前に晒すわけには…!
「あ、の、ほんと、お目汚しになるので…!」
「三十路男の裸体のが醜いと思うけど」
「ひ、ひうらさんは、鍛えてらっしゃると、思われますので、大丈夫かと」
「別に鍛えてねえけど、元々貧相だし」
全体的に線の細い樋浦は体格が良いほうではないのかもしれないけれど、裸の上半身を拝見した私に言わせれば、無駄な贅肉なんてなにひとつも見当たらなくて羨ましい限りだった。
男の人という生き物はどうしてなにもしなくてもあんなに綺麗な筋肉に覆われているんだろう?神経の隅々まで行き届いたしなやかな体は、女の人の柔らかな丸みを帯びたそれとはまるきり用途が違うように見える。
「俺と一緒はやだ?」
「え、い、や、ではない、ですが…」
「なら良かった、一緒にのんびり浸かろうぜ」
あれ?と一瞬で丸め込まれたことにびっくりしていれば、子猫でも可愛がるみたいに顔中にキスの雨を降らされて、もう反論を出す隙もなくなってしまうから敵わない。
ちょっと、心臓が持つだろうか。
色々とキャパシティーの限界が近づいている。
「こっちおいでよ、澄ちゃん」
結局丸め込まれたまま樋浦と入浴を共にすることになってしまった私は、浴槽の隅っこに身を寄せながら、ケタケタと揶揄うように笑われてもう恥ずか死にそうだ。
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