プロローグ

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プロローグ

【確かに、そこの黄色いのが言う通り彼女達も、そして日向誠も救う方法が私にはある。】 「本当か!?」 【と言うよりもその方法は最初からあったの。】 「雨……どう言うつもり……?」 雨の言葉を受け、茜が雨を睨む。 【結論から言えば私の雨幻を彼女達に使えば彼女達が自殺した事も無かった事に出来る。】 「そんな話、初めて聞いたのだけれど……。」 これは茜も知らなかったらしい。 【でも自殺して転生したばかりのあなた達がそれをしてまた自殺する可能性の方が高かった。 何より彼女たちはそこでもまた自殺をすればそれこそ取り返しの付かない事になる。】 「そこで桐人さん、あなたの存在が必要になったのです。」 そこで光が割り込む。 【おいこら!私が説明してるのに!】 「実際桐人さんはなにも覚えていないどころか自らの命を奪った事さえも忘れていた彼女達に大きな影響を与え、今日までを過ごしてきました。 そこだけは雨ちゃんの力一つでどうにか出来る問題でもなかった。」 【くっ……そうだよ……。 私には茜を助ける可能性を与える手段はあっても茜を変える方法なんてなかった。 私のせいで今度こそ茜が消えてしまったならもう私に意味なんて無かった。】 悔しそうに唇を噛み締める雨。 それは本当ならすぐにでも自分一人の力で茜を助けたかったのに出来なかったからだろう。 「改めて聞きます。 茜さん、凪さん、そして雫ちゃん。 あなた達は雨幻を受ける覚悟はありますか?」 【だからそれは私のセリフ!】 「わ、私は……。」 言葉をつまらせる凪。 「ただし。 彼女達が試練を乗り越え、自殺しなかった、と言う世界線になったとしたら。 当然ながら、桐人さん達とあなた達は出会わなかった事になります。」 「え……それって!」 木葉が驚きの声を上げる。 「はい、当然ですが桐人さん達の記憶から彼女達の存在は無かった事になります。」 「そんな!」 今度は千里が驚きの声を上げる。 そしてその言葉を受けて、凪はビクリと肩を揺らす。 「そこはなんとかならないのか……?」 「はい……残念ながら。」 普段底抜けに明るい光がこうも沈痛な面持ちを浮かべて言うのだから間違いないのだろう 。 「茜さんが死神神社の巫女にならない世界線では、桐人さん達が力を手に入れる事も試練を受ける必要性も無くなりますから、必然的に茜さんと会う必要が無くなってしまうのです。」 「そんな……。」 「私としても心苦しい事なのです。 でもこのまま茜さん達がいずれまた何らかの理由で命を落とせば存在その物が無かった事になる。 それを思えば彼女たちの存在を守り、また生きていけるようにする為にこれは避けて通れない道なのです。」 「っ……! でも、そんなのって……!」 確かに、理屈として頭では理解出来る。 光が言う話の意味も、絶対にそうした方が良いと言う事実も。 でもそれならこれまで積み上げてきた時間は? 今まで一緒に過ごして来た時間は無駄だって言うのか。 「桐人さん達がやって来た事は絶対に無駄になんかなりませんよ……。 あなた達と出会わなければ、今こうしてこのチャンスが訪れる事も無かった。」 「でも、でも!」 受け入れたくない。 俺達は今まで、この何気ない日常を守るために戦って来たのに。 そんな何気ない日常をただ何気なく、なんの障害もなく積み重ねて行きたいと願うのはワガママでしかないのだろうか。 でもそれが出来ない事だなんて最初から分かっていたんだ。 分かった上でただ彼女達を救うためにこれまで戦ってきたんだ。 分かってた筈なのに。 「こんなの受け入れられるわけないじゃないか……。 」 「キリキリ……。」 木葉もまた辛いのだろう。 その目には涙が浮かんでいる。 「桐人さん、正解とは必ずしも優しい物ばかりではないのです。 時には残酷で、受け入れたくなくても受け入れなければならない事もあるのです。」 「っ……!」 「彼女達の事を思うなら、無事に未来を変え、生まれ変わっていく姿を見届ける事も仲間として必要な事なのではないでしょうか……。」 言い返す言葉なんて見つからない。 結局彼女達を救った上でなおも一緒に居たいだなんて俺の個人的な問題だし、本当に彼女達の幸せを願うならそんな問題は捨てなければならない。 「……分かった。 」 正直今も辛い。 本当に認められたかと言うと嘘だとハッキリ言える。 でも俺達がしてきたのは彼女達を救うための努力だ。 そこにずっと一緒に居たいという願いがあっても、その努力が無駄になる事があってはならないのだ。 「そうです。 全て無くなってしまったとしても、全てを忘れてしまったとしても、きっと残せる物だってある。 無駄になんてならないし、してはいけない。 」 「でも……私……できるかな?」 そう言う凪の体は震えていた。 「私も怖いの……。」 雫も同じく泣きながら震えている。 当然だ。 全てを思い出した茜はともかく、凪と雫は自分がどんな人間だったのかをほとんど忘れている。 「それなら私も……。」 そして茜もまた迷っている。 三人も、そして俺達も、これが正解である事を知りつつも、それが失敗した時のリスクや不安ばかりを考えて前に進めずにいる。 「じゃあさ、私から一つ提案があるんだけど……。」 重い空気が流れる中、木葉がおずおずと手を上げる。 「提案?」 「三人が良ければだけど。」 「おい、もったいぶらずにさっさと言え。」 「うーん、キリキリには今は内緒。」 「は!?何だよそれ!?」 そんな抗議の声など知らん顔で、木葉は茜、凪、雫にそれぞれ耳打ちする。 「えぇ!?そんな急に……!」 「ふざけているのかしら……?」 「なんか楽しそうなの!」 それに三者三様の返事をする。 正直一貫性が無さすぎて何を言ったのか分からん。 「大丈夫大丈夫、私もフォローするし。」 「それが不安なのだけれど……。」 「何をゥ!?」 茜の毒舌に心外だとでも言いたげに返す木葉。 「おい木葉……。」 「まぁまぁ、詳しくは明日のお楽しみって事で。」 話は終わり、とばかりに木葉は手を一度パンと鳴らす。 正直不安しかないのだが……。
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