2 変化

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 仕事を終え、会社を出てしばらく歩いたところで、安積に呼び止められたのだ。 「依子ちゃん」  馴れ馴れしく名前で呼ぶ安積は、片手を上げこちらへ歩み寄ってくる。  きっちりと三つ揃えのスーツを着こなし、ピカピカに磨かれた革靴を履いた彼は、やはり女たちが騒ぐのも無理はなく、スマートでカッコいい。  隣に立った瞬間、ふわりと良い香りが漂ってきた。さらりと髪をかき上げる腕にはブランドものの時計。 「飯、食いに行かない?」 「誘う相手が違うんじゃない」  眉をひそめて安積を睨み、依子は再び歩き出す。が、咄嗟に前に回り込んだ安積に行く手を阻まれた。  まなじりを吊り上げ、依子は安積を見据えた。 「何のつもり、どいて、邪魔よ」  安積はへえ、と眉を上げた。 「人って、こんなにも変われるもんなんだね。驚いたよ。あの井田さんがさ」 「だからなに?」 「今までそんな強気な態度とったことさえなかったのに。いつもおどおどして、みんなの顔色を覗っていた君が」  依子はふっと鼻で嗤った。 「言いたいことを我慢するのはもうやめたの。自分のやりたいようにやらなきゃ損だってことにも気づいた」  もう損をするだけの人生なんてごめんだわ。  誰かに振り回されるのも。  安積は口元に笑みを浮かべた。 「本当に変わったね。すごくきれいになったのは事実だし、今の君はとても魅力的だよ」  安積の甘い声が耳元に落ちる。  きれいと言われて胸が鳴る。  その言葉は依子にとって魔法の言葉。  何度聞いても気持ちを舞い上がらせた。 「いい店、知っているんだ。もちろん、ご馳走するよ」  慣れた手つきで腰のあたりに手を回してきた安積にうながされ、依子は断ることもできず歩き出した。
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