1 私はあの女の引き立て役

1/11
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ

1 私はあの女の引き立て役

 井田依子(いだよりこ)塔子(とうこ)の引き立て役だ。  おそらく誰もがそう思っているだろうし、事実、社内の人たちがそう言っているのを何度も聞いた。  塔子とは職場の同期で、入社以来、なにかと一緒に行動をする機会も多く、自然と仲良くなった。  慣れない環境に人間関係、戸惑う依子に対し、塔子はすぐに周りとうち解け、仕事の覚えも早く、あっという間に社内に馴染んでいった。  美人で社交的、存在するだけでその場の雰囲気が華やぐ塔子の側には、常に男女問わず人が集まった。  一方、依子は内向的で引っ込み思案。自分の意見すらまともに言えず、存在すら忘れられてしまうほど地味で影が薄い。  地味な顔にやぼったい黒縁眼鏡。いつカットに行ったのかわからない、伸ばしっぱなしの黒髪と、目元まで隠れる前髪は依子の印象をさらに暗くさせた  仕事帰りに春物のコートが見たいと言う塔子につき合うことになったのだが、繁華街を二人で並んで歩くと、嫌というほど自分の欠点を思い知ることになる。  通りすがる男性の多くが塔子に目をとめ、振り返っていく。  依子は見向きもされない。  それどころか、一緒にいるブサイクな女、友人かよ、と、あからさまな暴言さえ聞こえてくることもあった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!