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1 私はあの女の引き立て役
井田依子は塔子の引き立て役だ。
おそらく誰もがそう思っているだろうし、事実、社内の人たちがそう言っているのを何度も聞いた。
塔子とは職場の同期で、入社以来、なにかと一緒に行動をする機会も多く、自然と仲良くなった。
慣れない環境に人間関係、戸惑う依子に対し、塔子はすぐに周りとうち解け、仕事の覚えも早く、あっという間に社内に馴染んでいった。
美人で社交的、存在するだけでその場の雰囲気が華やぐ塔子の側には、常に男女問わず人が集まった。
一方、依子は内向的で引っ込み思案。自分の意見すらまともに言えず、存在すら忘れられてしまうほど地味で影が薄い。
地味な顔にやぼったい黒縁眼鏡。いつカットに行ったのかわからない、伸ばしっぱなしの黒髪と、目元まで隠れる前髪は依子の印象をさらに暗くさせた
仕事帰りに春物のコートが見たいと言う塔子につき合うことになったのだが、繁華街を二人で並んで歩くと、嫌というほど自分の欠点を思い知ることになる。
通りすがる男性の多くが塔子に目をとめ、振り返っていく。
依子は見向きもされない。
それどころか、一緒にいるブサイクな女、友人かよ、と、あからさまな暴言さえ聞こえてくることもあった。
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