1 私はあの女の引き立て役

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 依子はこっそりとため息をつく。  ミニスカートにブーツ。ファーつきの白いコート。  お洒落で女性らしい装いの塔子に対し、依子はデニムに茶色いセーター、足元はくたびれかけたスニーカー。太り気味の体型をさらに膨張させるダウンジャケットというラフな、悪く言えば色気のない格好だ。  いくら職場の服装が自由だからといっても、この格好は社会人としてどうなのか、と疑問に思ってしまうこともある。  だから、塔子の立ち寄るショップに行くたび、場違いな雰囲気に圧倒され、肩身の狭い思いをしていた。  できれば買い物などつき合いたくなかった。  ならば断ればいい。けれど、それができない。  社内でも人気のある塔子に嫌われ、職場で孤立してしまうのが怖かったから。  塔子に従い、ショップを巡り歩いていた依子はふと、靴を売る店の前で足を止めた。  ショーウインドウに飾られた白いパンプスに目がとまる。 「どうしたの?」  依子の視線の先を追った塔子が、目敏く白いパンプスを見て目を輝かせた。 「あら、上品な靴。素敵じゃない。見ていこうかな」 「待って!」  こちらの返事も待たずに店に入ろうとする塔子を、慌てて引き止める。  依子が履いているスニーカーでは、店の雰囲気に合わなさすぎて恥ずかしい。
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