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1時間も待つなら別の店に寄ろうかな。
この辺りの店は大体知ってる。どこにしようかと考えていたら、老舗っぽくて入りづらいけどいつか入ってみたかったバーが目に留まる。
吸い寄せられるようにそのドアを開けていた。
「ぃらっしゃいませー」
カウンターの中から中年女性店員が声を掛けたが、ケンジが目が合ったのは違う方向のテーブルに飲み物を運んでいた別の若い店員とだった。
目が合うのには
お互いに見なければ成り立たないのである。
二人はしばし見つめ合い動かない。それを見たカウンターの女性店員が面白そうに言う。
「貴方たち、カップル?」
「一見さんをいきなりからかうのやめた方がいいですよナツコさん」
テーブルの店員がテンション低く中年女性バーテンダーをいさめる。
「いや、冗談で言ってるんじゃないのよ。ああお座りください」
冗談よの聞き間違いか?いや女性店員は確かに冗談ではないと言った。
ケンジは思い出したようにカウンター席に座った。
「入り口で変に固まった俺が悪いんです。なんだろう。初めて来たせいかなハハハ」
「前世では常連さんだったのにねえ。その時は女性だったけど」
「だから初対面の人にそういう冗談は無理ですってば」
「この子三日前に雇ったばかりなのにオーナーのアタシに向かってこんなこと言うのよ。まったく最近の若いのは。で、何にしましょうかね?お客様」
ケンジがビールと言いかけたとき、若い店員のいたテーブルの方から声が飛んだ。
「サイドカーをご馳走してさしあげて。私からよ」
「えっいいんですか。でも名前は聞いたことあるけど飲んだことないなぁそれ」
その女性客はケンジが奢り酒を受け入れたのをいいことに、カウンターの隣に来て座った。
「私は占い師をしています。少しお話したいわ」
ケンジはカクテルはジントニックやスクリュードライバーを缶で飲むことがあるぐらいで詳しくない。しかしグラスに美しく注がれたそれを一口飲むと、さっき入口で感じたのと似た不思議な感覚が
蘇った。そうだ。初めてなはずなのに何かが蘇った感覚。
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