運命のひと

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「前世ではいつもそれをご注文でした」 前世? ヤバいとこに来てしまったと思う一方で、少しずつ信じている自分がいる。 「この子はあなたの運命の人よ」 占い師が、さっきケンジと見つめ合った若い店員を指して言った。 さすがにそれは「はっ?」と声が出るケンジ。 運命の人って 普通赤い糸で結ばれてるっていうあれだよな。そんなの分かるわけがないという以前に、心底うんざりした顔で溜息をついてこう吐き捨てたその店員は 「なんで俺が」 男だ。 酔いが回るほども飲んでいないが、もう思考回路がおかしくなってきている。女バーテンダーと占い師の言うことが真実だという前提が出来上がっていた。 …今の時代男同士が結ばれるのだって珍しいことじゃない。じゃあ俺は気付いていないだけで本当は男が好きなのか?年を取ってから自覚するという話も聞いたことがあるし。 錯乱するケンジを尻目に占い師は天にも昇るような顔で 「ごめんなさいね。基本こういうことは一般の人には言わないんだけど。運命の二人が出会う瞬間なんて滅多に見られないものだからつい」 ケンジは息たえだえに振り絞った。 「俺には、付き合って一年になる女の子がいるんですよ」 「大丈夫!大丈夫よ…運命の人だからってね、必ずしも結ばれる運命ではないの」
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