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「判定、水玉」
音声が流れると、ベルトコンベアに乗せられたそれは右の方向へと割り振られていく。
「判定、渦」
次の判定は違う内容。それは左の方向へと流れていく。
ここはチョコレートの工場。加工して模様を付けて、包装して出荷する場所。その模様の感じが実に好評で、製造工程は秘密となっている。
「判定、水玉。判定、水玉。判定、渦」
しかしどういう訳か、最終工程のここで模様の分別をAIで行っている。水玉模様のチョコだけが欲しい場合と、渦模様のチョコだけが欲しい場合があるためだ。
最初から別々のラインを作ればいい話なのだが、なんだかんだそういうわけにはいかなかったらしい。おかげでAIである僕が生まれ、働く場所ができたのだから文句は言うまい。
水玉、渦。その判別を繰り返す日々。
だがある日、僕にエラーが起きてしまった。
「判定……エラー! 人間の判断を請う!」
警報音と共に異常事態。人間たちがわらわらと集まってきて、ベルトコンベアの上のチョコを眺める。
「こいつぁ……」
「どっちだ……?」
人間たちも首を傾げた。
そのチョコの模様は、渦巻き模様が水玉状に配置されていた。
「一体どうやったらこんなものができるのか」
「今までこんなことなかったじゃないか」
「そりゃそうだが、出てきてしまったものはしょうがない。これは、更なるオリジナル商品という事で売り出そう。渦巻水玉模様だ」
作業着姿の社長の決済に誰もがなんだそりゃと思ったが、僕はしっかりそのように教育され、ベルトコンベアの行き先は追加された。
「判定、渦巻水玉。判定、水玉」
その後は時折出る渦巻水玉も難なく捌き、事態は沈静化した。
「判定……エラー! 人間の判断を請う!」
再びのエラー。同じように人間が集まり、そして首を傾げた。
「これは……水玉が渦巻状に配置されてるな」
「こんな設定してないのに、一体どうやって……」
「そうはいっても仕方ない。渦巻状水玉としてAIにも教え込もう」
そうして新たな項目が追加されたのだった。
「判定……エラー!」
それから不定期にエラーが発生し、新しい種類が追加され、ベルトコンベアの行き先は工場が手狭になるほど増えていった。
「これ以上は出先を増やせないぞ!」
「し、しかしいずれの新種もお客様には好評で……何、AIに覚えさせてしまえば我々の労苦はない」
すっかり羽振りの良くなった社長がそう言って皆をなだめた。僕には仕事が増えていった。
そんな事を繰り返していくうちに、模様の種類は20を超え、30を超え、果ては社員の誰も覚えてない程の数になった。それでも工場は回り続ける。混乱する僕だけが忙しくなる。
「判定、渦。判定、水玉。判定、渦巻模様の渦型水玉を水玉状に配置した渦。判定、水玉模様の水玉型渦を水玉状に配置した渦を含んだ水玉を渦上に配置した水玉」
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